破壊の使徒と本選及びリオンがモテて困る件について
大会は予選と本選に別れ、トーナメント形式で進行していく。本選までに百近かった学園の数は三十まで減り、残り三十で優勝を競うのだが、フィル達も予選は余裕綽々の風体で見事に切り抜けていた。フィル個人としては予選期間中に非常に困った事態が勃発し続けている。それはリオンがモテるのだ。それも他国の王族共に猛烈なまでに。告白という名の命令をリオンに浴びせかける典型的な駄目駄目王子が大半を占め、人数はデュクセンも含めて十人に及んでいる。何れも列強の国々の王子だ。
尤も[国落としの大虐殺者]がエクシリアの陣営にいる限り、列強同士で徒党を組もうと勝ち目はない。
彼の者は大規模戦において天下無双の実力を有し、例え歴戦の猛者達を天才軍師が立てた策略を持って攻め入ってきても圧倒的な力による暴虐によって策略を根本から破壊し尽くす。血の噴水が場を朱に染め上げる中、一人だけ返り血を一滴も浴びず、周囲の光景に感情を一切動かさない。冷徹にして残虐、最強にして無双、彼の者に滅ぼされた国は現在、過去も含め二十以上に上る。
リオンのためなら幾らでも汚れてみせる。本選までの時間で思考を繰り返した結果が相手が戦いを挑んでくれば大虐殺も止む無し、だ。さすがフィルと賞賛を込めるべきか何れにしても普通ではないと呆れるべきか。何よりフィルは憤っていた。王子という特権階級の中で最高レベルに位置する立ち位置故なのか告白も何処か強要するようで常に高圧的、自分のことしか考えぬ独善的なものだった。ここで、勝手に自分の女扱いしたフィルはどうなのか。そう思う者もいるはずだ。
まあ、フィルはちゃっかり大会期間中のリオンの寝室に入室を許可される関係になった。ちょっと狡いが箍が外れた色気駄々漏れ状態に任意で慣れるようになったフィルは自身の持てる、否漏れる色気を最大限に使いリオンを完全に陥落させた。素が中性的な容姿のフィルがそれをやると実のところ女性には男性に男性には女性に見えかねない背徳的な美しさがある。鼓膜を震わせるフィルのハスキーボイスが大好きなリオン自身囁かれるだけでノックアウト寸前なのだ。それに濃密な色気を内包した情熱的視線と優しい所作の中に見て取れる独占欲が加味されて耐え忍べる精神力はさしもの彼女でも持っていない。彼女にとって色んな意味でフィルは落とすことに慣れていると痛感した日だった。一番慣れてるのは言うまでもなく国落としだが。
大会開催日から五日目、本選が始まった。先に三十校程度と言ったが学校単位でカウントした場合であり、内訳は様々だ。六人全員が本選まで勝ち抜いた学園もあれば一人だけ本選まで勝ち抜いてきた者もいる。数的には不利なのだが、実力問題故に仕方がない。エルシア学園や件のデュクセンは全員が勝ち進み、リオンに告白いう名の命令を宣告してきた王子達も本選に残っており、何の因果か上手くいけばフィルは全員と戦うことになる。が、彼女が出来て幸せ一杯のフィルの体調は最高潮。負ける道理はない。後に浮かれ過ぎていたと臍を噛むことになるが、取り返しのつかないような、そんな後悔をする結果には至るものではない。至りようがない。
余談だが、カイとウィルガもそれぞれニーナとエミリーにちょっかい出されて相手を叩き潰すつもりである。面倒なことに相手は王族だが、バックアップは惜しまない。既に付き合い合っている彼らの仲に水を差すような輩をフィルは許すつもりはない。馬に、否ユニコーンにでも蹴られてしまえばいいのだ。勿論、実際にユニコーンに蹴られれば余裕で致命傷であるが。
とりあえず、無粋な王族が多数参戦する中で本選は開幕した。フィル達男性陣は無粋な王族共を徹底的に痛めつけ、戦意をへし折る事を神に誓い、各々の戦いに赴いた。リオン達は信じて待つわけではなく、愛しの彼氏を付け狙う有象無象を殲滅しに戦場へと足を踏み入れる。
フィルの本選第一回戦の相手はこの国の王子ザルエス、脂ぎった肥満体の大臣並みに気持ち悪い視線でリオンを見ようとした抹殺対象だ。無論殺しはしないが月並みな言葉だが殺された方が良いと思えるほどの苦痛を与えてやる、残忍な笑みを湛えてフィルは舞台へと降り立つ。
対戦相手のザルエスはカイザスにある幾つか武術と剣術の流派で免許皆伝の実力者と同等の技量を保持する武闘派の王子だ。流派も魔法を併用して戦う類のもので、この大会に出場するために育ってきた人材だ。実力で言うなら近衛騎士団長以上と近衛の存在意義を真っ向から否定する存在でもある。
「ここで会ったが、百年目だ。リオンさんをお前から絶対に開放してやる!!」
「開放?おかしなことを言うな。リオンは俺の恋人だ。他人の入る余地などない。そもそもストーキングの常習犯如きにリオンみたいな極上の女は勿体無い。世界的な損失だ」
「なんだと!!」
「いやらしい目で人の女眺めるなんてこと迷惑だから止めてくれないか?お前に見られるとリオンが汚れてしまう。汚れても俺が全身隈無く綺麗にするけど」
「貴様!!」
綺麗にする発言で如何わしい想像でもしたらしいザルエスは逆上してフィルに突貫した。逆上できる立場にいるのはフィルの方なのだが、まともな王子がいないな、とカイザスの将来をフィルは大いに憂いた。カイザスには三人の王子がいるが長男は眼前の脳筋男で次男は放蕩息子、三男は聡明だが病弱だ。フィル的には三男押しだが、如何せん体が弱く気温の移り変わりの激しい時期は下手すると普通の風邪で死にかける。王位継承者としては些か不安が残りすぎるのだ。
ザルエスの打ち出した渾身っぽいある意味フェイクのアッパーカットを後退気味に跳躍して躱すが、アッパーカットはフェイク。本命はその後に来る拳衝撃。拳衝撃とはカイザスの格闘技の中でも奥義に分類される技で滞空中の相手に大ダメージを与える技だ。概要は衝撃波を相手の体内にゼロ距離で放出するという割と単純なものだが、滞空中という部分がミソだ。地に足がついていれば、衝撃の大半が足を伝い地面へと逃げてしまうが滞空状態なら衝撃は逃げず、しっかり対象の体内に駆け巡る。
引き起こされるのは内臓破裂で即死という結果だ。尤もフィルに言わせれば、奥義なんて言葉で表すほど高等な技ではない。大抵の魔法使いなら行使可能な技なのだ。拳衝撃は発動基点となる腕を小刻みに震わせ、分類で言えば付与系統の魔法で振動を増幅し、対象に接触する。殴るという手法を用いる事で増幅された振動が力のベクトル方向に向かう。振動が対象に流れ込む際に重ねて増幅する。二度、増幅された振動は大気を揺るがす衝撃波にまで昇華され、後は空中故に衝撃の逃げ場のないため衝撃波が体内を蹂躙し、相手を死に至らしめる。
初歩的な魔法行使ができる人間なら誰でも再現可能。奥義と銘打っている割にやっているのは前述の通り単純だ。ザルエスの顔を見れば既に勝った気になっている、そういう表情だ。確かに威力は相当なものだが、
「その程度の小技で俺を倒せると思っているなら出直せ」
跳躍したといっても、フィルの身体は地上から数cmしか離れていない。ザルエスは誘い込まれていた。フィルは片足を地面に叩きつけ、反動でもう片方の足を跳ね上げる。鋭利な刃物による切り上げを彷彿とさせるような軌跡を描いた蹴りは見事にザルエスの顎を捉える。蹴り上げた反動で着地したフィルと対照的に今度はザルエスが浮く。すかさず、踏み込んだフィルはにやりと笑った。
「お返しだ。殺しはするが死なせないから安心しろ」
拳衝撃、慣性に従い落ちてくるザルエスの鳩尾に叩き込む。生々しい骨の砕ける音、何かが飛び散る音が微かに聞こえるが、瞬時にフィルの流し込んだ再生の魔力で修復される。残ったのは殴られ、再度空へ浮上したザルエス。想像を絶する、神経が焼切れるような壮絶極まりない激痛に意識が途切れかけ、数秒後には同様の激痛で意識が覚醒し再度困惑する。終わりの見えない残虐な光景、打ち上げられたまま一度も地に落ずに腹部へ打撃を受け続けるザルエス。闘技場内には聞くだけで気が狂うようなザルエスの断末魔だけと肉を打つ音だけが木霊する。
審判が静止するまでザルエスが受けた拳衝撃の回数は実に百回。彼は百回殺され、百回生き返った。正確には破壊され機能を停止する寸前の各器官を停止直前で再生させているので、厳密には死んでいないが、幾度となく体内を蹂躙され内蔵を破壊されたザルエスは廃人のようになって医務室へ運ばれていった。外傷はフィルが完璧に治しているが精神までは治せない。否、やろうと思えば出来ないこともないがやろうと思わない。なんにせよ、リオンを奪おうとした事実は覆らないのだ。フィルの大事な大事な宝物である彼女を不躾な視線で舐める様に見た時点で首を落としてやろうかと思ったほどなのだ。生かして返しただけで僥倖と思え、フィルからしたら、そういうことなのだ。故に非難するような一部の観客の視線など気にならない。
カイとウィルガもフィル同様に廃人になるくらい相手を痛めつけて倒した。病み気味彼氏を怒らせるとヤバイ。さあ、フィルよ。リオンを付け狙う野郎をどんどん料理していけ!そして、根絶やしにするのだ!




