破壊の使徒と大会開幕
各々、最終調整を終えて迎えた大会の二日前に開催地へ出発した。当初の開催地旧エクリアは現在、国内全土に渡って色々な意味で調整中なため、開催地を変更して欲しいと前王を倒しエクシリア初代国王となった人物が大会の運営委員会に申し建てして急遽エクシリアのお隣のまた隣、カイザスという大国とも言えぬし小国とも言えぬ微妙な大きさの国に変わった。カイザスは国内紛争もなく、また何処の国とも敵対関係にない中立的な立ち位置にある国で国内に有する豊富な鉱山資源を武器に貿易に力を入れ、経済面だけで見れば大国にも匹敵する財を抱え込んでいる。
また月に一度、大金を注ぎ込んで建てた今大会の会場に選ばれた闘技場で武闘大会を開いており、毎回魔法学園の生徒も参加し、見栄えのいい魔法で観客を楽しませていた。そのため、身近に魔法を感じる機会の多い民衆は今回の大会開催地に選ばれたことに歓喜して今やお祭り騒ぎだという。フィル達もカイザスへ向かう途中に街道を行き来する大勢の人々を見た。三割は商人で稼ぎ時を逃してたまるかと商魂熱く勇み足でカイザスを目指す者もいた。フィル達は特に緊張はしていないが他の例えば団体戦に参加するSクラスの数人は明らかな緊張を孕んだ雰囲気で俯き沈黙を保っている。
個人戦と違い、団体戦は同じ学園から最大で四チーム参加できるので個人戦組は当然としてSクラスの数人も参加する手はずとなっている。チームの最大人数は四人で個人戦組はフィルとリオンで一チーム、フィル・リオンを除いた四人で一チーム。Sクラス八人で二チームとなっていて団体戦は四チーム中一チームでも優勝すれば国王からの命令は達成されるので、肩の荷は個人戦より軽い。責任重大な個人戦組は先の通り、緊張の欠片さえないのに対しSクラスの団体戦組は喪中のごとき静けさ及び暗さを発していた。上級生はその様子を情けないと率直に感じている。
その視線を感じ、さらに萎縮するSクラス組、完璧な悪循環である。無緊張皆無な個人戦組は密かに上級生の視線がなければ悪化しなかったのにと悔やんでいるが、まだ十代。感情の機微を完璧に読み取るほど経験は積んでいない。僅かに例外はいるようだが、ミウラルネを含めた九大公爵家の直系でしかも将来有望とされている性格が奇跡的に歪んでない良識的な人物のみだ。ちなみに奇跡的といったが、九大公爵家の血筋の者は基本的に自己陶酔の激しいタイプで優れたる者である自らより実力が下回っている者達を下等と称するきらいがある。否、風潮と言っても過言ではない。
それは親族のせいでもある。徹底的な実力主義と九大公爵家至上主義を洗脳のレベルで刻み込む。すると、自身の力を十全に操作できないくせに無駄にプライドの高い典型的な貴族が生まれる。この場合、十全に操作できずとも一般的水準を大きく上回っている故に傲慢さが増長される悪循環が発生しており、今Sクラスの生徒はその傲慢さ故に上級生の視線に耐え兼ねている。恥辱的な意味でだ。そんなわけで九大公爵家の血筋で良識的な人物というのはもはや珍獣並みの希少さを持つ。殊の外、今の世代は良識的な人物も多く国の将来は明るいとされている。そんな希望的推論が出る時点で現在の主要な貴族達が如何に腐っているか明白というものだが、酷評が得意な批評家は自重を知らない。
フィルはその良識的な先輩方が政治的なごたごたに巻き込まれて迷惑してる事実を知っていた。同情するしかない。詳細を言うとミウラルネなど綺麗どころの女性は他国の王族と政略結婚を命じられたり、当主代理でもないのに戦闘に駆り出されたり、今は学生の本分を全うしたいという要望でどうにか押さえ込んでいるが全て防げるわけではない。貴族の子息子女故に仕方のないことではあるが少しばかり無能すぎやしないか?今の首脳陣はというのがフィルの純然たる思いであり疑念である。批評家の酷評も頷ける情勢なのだ、今の魔法大国エルシアは。
そのくせ、面子だけは保ちたがる。面子云々を語るならまずは国内の膿を一掃すべきである。軍事力的な面は確かに大陸一だが簡単に他国のスパイが入り込め、各地で民衆が苦しみ悶えている状態が数年単位で続いている国の面子などあってないに等しいことに気づかない。突出した魔法技術は十分に賞賛されているが政治的な実力は今の施政者には皆無であり小国にさえ嘲笑される始末である。それにさえ気づかない愚か者どもの命令に従うつもりなどフィル達にはないが勝てば不本意ながら愚か者どもの意に沿う形になる。本当に不本意以外の何物でもない。
生徒としては純粋に試合を楽しみたい気持ちもあるが嫌でも政治的な意味合いで重要なイベントであるため全てが全て楽しいとは言えなかった。よって、一年のSクラスの生徒が特に暗いわけだが、他の生徒も暗い気持ちを僅かながらも持っていた。一年のSクラスの生徒を除いた他の生徒は嫌でも政治のことを思い浮かべてしまうほど目に見える国の政治状態の堕落に失望が隠せなかった。肉体的にも精神的にも戦闘に関してなら万全の状態だが、改めて自国を見つめ直して思ったのだ。自国に誇りを持って戦えるのかと。フィル及び良識的な九大公爵家の直系の方々は無理だと最初から諦めている。
この大会は魔法学園のひいては国の威信をかけた一大イベント、一年のSクラスを除いた参加生徒の最終的な見解は長々とだらだらと語った割にひどく簡潔で「威信?そんなもの最初からないよ」である。故に長々だらだら語ったが普通に試合するで決着した。そんふうに納得した日の二日後。
大会当日。会場となる闘技場の観客席は既に全席埋まっており、のべ十万人ほどが一堂に会している。闘技場は円形で半径は二百m前後、参加する魔法学園数は百校近い。最も闘技場は他にも幾つかあり、試合は各闘技場で同時進行で行うことになる。全ての闘技場に入る観客の総数は百万人相当すると予想されている。今、一同が会している闘技場に収まりきらず入れなかった客も数え切れない数いるのだ。当然のように観客数も増すだろう。だが、先んずは開会式だ。地位の高い来賓のために用意された特別仕様の席から一人の男が宣言する。大会の運営委員会会長だ。
「これより魔法戦闘交流大会を開催する!!」
別段大きい声ではないが全ての喧騒を呑み込み、会場全体に響き渡った。同時に喧騒を歓喜の雄叫びに変え観客は大いに声を張り上げ、大会の開催を祝福する。地響きするほどの大音量ならぬ大声量だ。この後、直ぐに個人戦の第一試合が行われる。各学園の出場者は指定されている闘技場に即時移動を開始した。フィル達は現在いる闘技場が試合会場なので移動に時間を必要としない。控え室に向かうだけだ。まあ、控え室に向かうだけでもトラブルを引き寄せるのが彼らだが。控え室へ続く通路を移動中、個人戦の優勝候補とされる個人戦闘の猛者集団である傭兵国家デュクトルからの参加生徒と鉢合わせした。普通なら道を譲り合い、すれ違うのだが集団の先頭に立つ男が静止状態で集団の進行を止めた。
フィル達は通路を塞がれ、見事に進めなくなった。何の思惑があっての行動なのかフィルは訝しげに先頭の男を見た。涼しげな目元が印象的な異性に好かれそうな風貌の男で十中八九モテるだろう。個人戦闘のエキスパートなのは立ち振る舞いや雰囲気から読み取れた。男の視線はただ一点を凝視しており、フィルは嫌な予感がした。それは完璧にフラグなのだが、回収してしまったと気付いた時には遅かった。男の視線はフィルの隣、リオンに固定されていたのだ。男がリオンに一目惚れした、と他人の恋愛事には敏感なフィルは理解した。同時に黒い感情が心の奥底から湧き上がるのを感じる。
その感情に驚愕しつつも冷静に分析する。結果、フィルは結論を出した。一般的にその感情を独占欲と呼ぶと。つまり、自分はリオンを他の男に盗られるのが我慢ならないのだ。冷静ながら冷静に成りきれていない頭でフィルは黙考する。そして、この独占欲の起因となる感情を割り出した。冷静に成りきれるだけなりきった静かな思考の中で一般的な常識と自身の感情を分析し照らし合わせながら考えることゼロコンマ数秒、答えはあっさりしていた。どうやら、自分はリオンが好きらしいと。
フィルは恥ずかしながら最近まで長年の友人の性別を測りかねていた。そして解を友人の口から聞いた時、気付かないふりをしていたが、確かにリオンを意識し始めていた。測りかねて一人悶々としていたのだ。もし女ならと少なからず恋愛的な視点で見ていたことに相違ない。朴念仁の割に簡単に答えを出したフィルは思わずといったふうにリオンへ伸びた男の手を阻む。否、弾き返す。
「なんのつもりだ!」
邪魔された故か対処のしようがぞんざいだった故か大人しそうな風貌に似合わず激昂した男にフィルは冷笑を返す。今は元より正常でないフィルが色んな意味で開き直った瞬間なのだ。常識は完全に消失している。だから、フィルに常識的な対応能力は残ってない。残っていても常識的な対応はしないだろうが、そこは重要ではない。
「なんのつもりだ?それはこちらのセリフなんだがな。通路を塞ぎ立ち往生させられた挙句にお前がいきなり不躾な手でチームメイトに触れようとするものだから、庇ったまでだが?全く昼間から堂々とセクシュアル・ハラスメントとは名門デュクトル魔法学園の新入生代表様は発情期か何かのようだ。被害が出ないうちに退散したいので、そこを退いてもらおう」
「貴様!我が校を侮辱するのか!」
「新入生代表様は語学に堪能ではないようだ。誰か話の分かる人、どうにかしてくれないか?」
リオンがフィルを肘で小さくつつき、「いつになく好戦的だけど、どうかした?」と心配の色を混ぜて聞いた言葉に微笑をこぼして「嬉しい発見があったんだ」と告げる。疑問符を頭上に浮かべるリオンを余所にフィルは男に向き直る。正確には男の背後にいる生徒達に。しかし、結果的に裏切られた。彼らは視線でフィルに語ってきた。「すまない。無理なんだ。これにまともな話は通じない」と。だから、逆にフィルも語り返す。「大会の前にどうして治療しかなかったんだ?」と。すると、示し合わせたかのように彼らは首をふるふると駄々っ子に言い聞かせるように振り語る。「治療を試みなかったとでも?」と。フィルの顔が絶望に染まった。この男、既に末期のなのか・・と。主に九大公爵家の良識的な人達以外が発病している不治の病、通称自己中に罹っているようだ。
しかも、フィルが絶望している間に自己中の末期患者たる男はリオンに詰め寄り、名前を聞き出そうと試みていた。まあ、フィルが妨げているが正直うざい。リオンも多少引きつった表情であまりの必死さに思わず名前を言ってしまった。言ってから激しく後悔した様子だ。
「リオンさん」
「はい?」
「結婚を前提にお付き合いしてください」
「え、嫌だよ?」
「なぜ!」
「なんというか、生理的に」
「貴様のせいだな!リオンさんを解放しろ!」
「は?何を言って」
「貴様がリオンさんの弱みを握り脅迫しているのだろう?だから、リオンさんが本当の気持ちを言えないんだ」
エルシア陣営は唖然としている。フィルは臍を噛んだ。これが自己中の末期患者の恐ろしさだ。人の話を聞かずさらにうざったいくらい自分に都合の良い方向性のポジティブシンキング。うざい、うざすぎる。絶望感を込めた視線で一応、形式的に自己中(末期)の仲間に尋ねる。「こいつは何語を喋っているんだ?」返答は「最古の歴史書まで遡っても記されてない世界の創生に関係する超古代言語じゃないかな?」である。「解析は?」と聞けば「世界最高峰の頭脳を掻き集めても不可能だ」という最後通告がなされた。フィルは直感的に悟る。肉体言語以外、自己中(末期)には通じないと。
「ちょっと、何を勝手に言って・・」
「リオンさん、安心してください。我が名にかけて貴方をこの悪逆非道な男から開放してみせる!」
悪逆非道、その言葉を聞いたリオンは一瞬本気で我を忘れて目の前の男を殺しそうになった。フィルのことを知らないくせに、好き勝手語りやがってふざけるな。純粋な怒りが込み上げた。だが、怒りは他ならぬフィルによって霧散した。王者の、人の上に立つ者が発する風格を伴ったフィルの嘲笑。放つ言葉は嘲りとも皮肉とも取れるものだった。
「歴史あるデュクトルの王位継承者筆頭がこれとは、彼の傭兵王は名立たる英雄だがある意味で子宝に恵まれなかったわけか。礼儀も知らぬし、まともな会話もできぬ。滑稽だな」
ちなみに男、いい加減名前を出すがデュクセンがデュクトルの第一王子だという事実は秘匿されている。デュクセンの後ろに控えている者達はさすがに知っている様子。というのも、彼らは主要な大臣の子息子女であるからだ。国の立て直しに追われるエクシリアだが、諜報科活動だけは怠っていない。デュクセンの将来的な腹心になるであろう彼らは瞬間的に臨戦態勢を取る。秘匿情報を知っている相手、恐らく殺害するか否かで逡巡している。フィルはそれを面白げに見つめていた。
「心配するな。防音の魔法は一定範囲に施術済みだ。万一にも情報の漏洩はしていない。尤も、こちらのチームメイトは知ってしまったがな。だからと言って、早まった真似をするなよ?他国の諜報活動を察知できず情報を漏洩するに至ったのはデュクトルの迂闊さが招いた結果であるし、もしも俺に手を出しでもしたら戦争が起きるぞ?」
「貴様、何を言っている!」
「お前こそ何を言っている?何をしている?礼節を重んじるデュクトルの王子が他国の王に対して取る態度がそれか?未だ王子の身のお前が王である俺に対して無礼千万だろう?」
「王、だと!?」
超展開(?)に半ば呆然とする友人達のことはさておきフィルの言葉は続く。
「デュクセン・セス・デュクトルにフィル・ランス・エクシリアが問おう・・」
わざとらしく見せびらかす様にリオンの肩を抱いて密着しながら芝居がかった口調で
「何の許しがあって、俺の女に触ろうとした?誰の許しを得て俺とリオンを引き裂く?こんなにも愛し合っているというのに」
「それは貴様が」
「貴様?ふっ、ご丁寧に自己紹介をしてやったのに本当に無礼千万な奴らだ。勿論お前の部下も含め、だがな・・・跪いて非礼を詫びよ、愚か者が」
瞬間、未だかつて体験し得ない程の重圧がデュクセンらを強襲した。完全な不意打ち、あまりの重圧に骨が軋みを上げる中でデュクセンは気づく。重圧の正体、それが目の前の男から発せられる闘気であると。抗おうと試みても圧倒的な闘気、重圧が増し立ち上がれない。しかし、重圧は突然消えた。
「まあいい。そろそろ、試合の時間だ。時間厳守は全ての基本だしな」
蹲った姿勢で動けないデュクセン達を置き去りにしてフィル達は控え室へ向かった。当然、友人らからは詰問され、懇切丁寧に答える事となったフィルではあるが、出番が来るまでリオンの肩を抱いたままだった。結局、第一試合で脱落者は出ず、全員が勝ち進んだ。フィルは待ち遠しかった。デュクセンとの試合が。勿論、コテンパンに叩き潰す腹積もりである。
少し自分で読み返してみて、なんぞ、これと思った。勢いで書くとこうなるんだなと身にしみて感じた。うん、難しいなぁ文章構成。
とりあえず、大会編開幕です。




