破壊の使徒の友人たちの最終調整
カイの場合。
友人らと別れたカイは既に目的地と討伐対象を決定しており、その足取りには一片たりとも迷いが存在しない。というのも、カイ自身は前々からとある害獣の討伐を目標としていた。目標の害獣は言うまでもなく今回、向かう先に棲息する害獣で第三級に属する。名前はストーン・ベア。洞窟を住み処とし、主食は鉱石という中々珍しい害獣だ。逆に鉱石が主食である故に鉱石を体内で分解し栄養として吸収しているのだが、吸収された鉱石は正確には吸収された鉱石の残りカスが体表に凝縮した状態で折り重なっていくため、防御能力は第二級でも上位の害獣に比肩する。
しかも、住み処とする洞窟によって採掘できる鉱石の種類は異なるので、防御能力も個体差がある上、鉱石は粗悪品でも微量の魔力を内包している。それらを食すストーン・ベアは第三級にしては膨大と言って差し支えない魔力を保有する。また、鉱石という大地がつくり上げた産物を食す上で影響を受け、土属性を持つ。詰まる所、膨大な魔力量にものを言わせた土属性の魔法が攻撃の最もたる特徴だ。人類と同様に呪文を詠唱する手間を要すことなく魔法行使が可能で最速なら一秒前後で魔法を発動できる。無論、詠唱破棄を使えばストーン・べアの魔法発動速度を上回ることも可能だが、威力は度外視した本当に速度重視となるため防御力に定評のあるストーン・ベアには蚊に刺された程度にしか効果がない。
カイは卓越した防御魔法使いだ。害獣の中でも防御力に定評のあるストーン・ベアの防御力を上回ることが彼の第一目標だった。最終目標は害獣中でも最高の防御力を誇るオリハルコン・ゴーレムの討伐であるが、今は重要ではない。現在、カイが向かっている洞窟はミスリルなどの希少鉱石が採掘される場所だ。ストーン・ベアは割と個体数が多くギルドに討伐依頼として依頼が回ってくる。学園の方にも斡旋されており、偶然目に止まったこと、それに最終調整ということで挑戦すると決意した次第だ。しかし、普通のものなら疑問を持つのではないだろうか?紹介した通り、カイは純正で生粋の防御魔法使いだ。防御力が売りのストーン・ベア相手に防御魔法でどう対処するのかと。
誰でも思い浮かぶ疑問であるはずだが、一口に防御魔法使いといっても様々なのだ。カイは防御魔法使いの中でも防御魔法を攻撃手段として使用する魔法使いだ。ほとんど、防御魔法は固定し相手の攻撃を防ぐものだが、カイの場合は少し既存の防御魔法にアレンジを加え固定という概念を完全に廃している。通常の防御魔法が静ならカイの防御魔法は動だ。それこそ防御魔法を砲弾のごとく放出して対象に激突させる手などカイの戦闘における常道だ。時には防御魔法を擬似的な魔力剣化し直接的に殴打したり、同じ原理で槍を模し刺突したりとバリエーションは多様だ。なので、その筋ではカイの防御魔法は防御魔法でありながら防御魔法にあらず、もはや防御魔法という名の攻撃魔法だ、など褒めているのか貶しているのか判断の難しい評価を頂戴している。
現場に着くと鉱夫の方々が絶望感と哀愁を漂わせた状態で地面に腰を据えていた。実際に鉱夫の仕事を体験したわけではないカイも鉱夫達の様子には納得できる。彼らにとって採掘は命を繋ぐための労働だが、先に述べた通り、ストーン・ベアは割と個体数も多い。被害を受けるのは当然採掘を仕事とする鉱夫達だ。やつが出現する度に採掘を中断せざるを得なくなるのだ。近頃は出現の頻度も多く、この洞窟も奥地にストーン・ベアの巣があると推測されている。それが事実なら火を消すのと同じで元から絶たねばならない。害獣はほとんどの種が恐るべき速度で成長する。出現に暇がないのも自然の理ではある。しかし、自然の理でも唯々諾々と納得できないこともあるのだ。
「あの、依頼を受けたものですが」
「やっと来てくれた。頼む、やつらをどうにかしてくれ」
カイは何とも言えない状況に思わず絶句する。屈強な肉体を持つ中年のおっさんに泣いて縋られるなんて誰だって経験したくないはずだ。主に精神衛生的にこの上なく悪い。ぶっちゃけ、気持ち悪い。やる気が失せる感覚はこんなものなのかと現実逃避して屈強なおっさんの放つ熱気を意識の外に追いやる。それだけ追い詰められていたのか、自分らで解決策を考えつつも煮詰まってどうしようもなくなったのか、何がともあれ暑苦しい。依頼者に対する態度とも思えない無理やり引き剥がすという暴挙をカイは犯しつつも丁寧に必ず討伐する旨を伝えどうにか熱気から解放され、精神的に疲労困憊となりながら洞窟に突入した。おっさん方の放つ圧倒的な熱気は並みの人間なら、ショックのあまり意識を手放しても、寧ろ手放さなければ異常な程にぐっと来るものがあった。
カイの現在地は入口から百メートル進んだ地点だ。この洞窟はそれなりに有名な鉱物の産地である。やはり前述の稀少鉱石が売りなのだが、ストーン・ベアは希少鉱石を好んで食す傾向にある。人間だって不味い物を率先して食べようとしない、それと同じ行動原理だ。何より希少鉱石は内包する魔力の質が格段にいい。自身の強化にも役立つわけだ。鉱夫の方々の生活を考えると早期解決が望ましいか、とカイは独りごちて歩行スピードを上げる。ストーン・ベアの巣は奥の奥だ。カイもさすがに二時間も歩き続けることになろうとは想像もしなかったが。
想像の斜めを行く時間、歩くことになったが二時間歩いた程度で疲労を感じるような訓練を積んできたわけではない。気力十分、やる気半減、それが現状況だ。最初のおっさんによる精神攻撃が響いているが、問題ない。推測通り、ストーン・ベアは洞窟の奥に巣食っていた。総数にして四体。内訳は親二体、子二体である。子供の方は生まれ立て故にストーン・ベアの特徴である強靭な外殻は未発達だ。親がカイを威嚇し唸り声を洞窟内に反響させるがカイの意識は既に最初の標的である子供に絞られている。ダンッ、今までに削られ積もってきた岩石の細かな破片が中を舞う、そんな力強さで踏み込み、一気に加速したカイは詠唱破棄でありながら詠唱付きの正式発動したものに匹敵する強度・硬度を持つ扱いなれた防御魔法を発動して右手の指を真っ直ぐ揃えた手刀に纏わせ至近距離で一番外殻の薄い腹部に突き立てる。
威力向上を追い求め、手刀に纏う防御魔法は円錐を形取り先端は鋭く尖っている。一体目、手刀を引き抜いた後から人間と同様の赤い血柱が噴き上がる。断末魔も上げず、倒れ伏した小熊の姿に親は激昂し咆哮しながらカイに向け突貫するが冷静さを掻いた大振りで単調な動きをカイが躱せぬはずもなく、二体の攻撃を潜り抜け、もう一体の子供の命も刈り取る。地に染まる右手をひと振りして血を飛ばし、大元であるストーン・ベア二体を見据える。もはや思考能力もない獣、怒りの化身へと変貌したストーン・ベアに理知的な行動を取るなど不可能であり、本能的な闘争心と憤怒のみとなってカイに躍り掛る。無駄な思考を捨て去り、単純に速く重くなった一撃を回避し、もう一方からの追撃を即席で発動した防御魔法を棒状にして斜めに受け流してやり過ごす。
渾身の一撃を受け流され大幅に体勢を崩した一方は側頭部を棒状の防御魔法で殴打されて、よろめき顎を打ち上げる追撃も諸に受けて背を下にして倒れる。脳震盪を起こしただけだが、時間稼ぎには十分な時間だ。カイは背後からの爪による斬撃を防御魔法の基本、面の防御で防ぎやや重心が左に傾いたストーン・ベアの足の甲を形状変化で槍を模した防御魔法で突き刺す。外殻が比較的薄い部分であるがため、貫通し地面に足を縫い付ける。もがく度に鮮血が噴出し、苦痛がストーン・ベアを襲う。カイは追い討ちをかけた。カイ自身にも原理がわかっていないが、便利なので多用する防御魔法を砲弾のごとく掃射する攻撃方法でストーン・ベアの外殻を徐々に掘削していく。結果は既に決定していた。目標の一つを達成し、大会前の最終調整も終了とカイは納得した。モチベーションの向上にも繋がった。
が、嬉し泣きしながら抱き縋ってくる屈強な中年のおっさん達に精神をやられ大会まで寮に引き籠もり、休養することと相成ったが。
想像してください、縋ってくる屈強な中年のおっさんの姿を。それも目をうるうるさせた上目遣い。精神に異常を来すこと間違いなし!




