破壊の使徒と大会前の最終調整2
黒い鷲を狩る目的でフィルはエルシア国内唯一の悪神が封印されし火山、最果ての山脈に訪れていた。最果ての山脈とは火山というより全体がダンジョン化した場所で高ランクの冒険者及び狩人以外は入山を禁止されている危険地域に指定されている。理由はダンジョンなのに対し出現する魔物がほぼ黒い鷲一択に絞られるからだ。黒い鷲は例の仮説の成否に関係なく悪神の放つ瘴気を常時吸収している。それ故に瘴気を攻撃手段としブレス攻撃として放出する。掠りでもすれば、たちまち瘴気に身を侵食され、患部は腐り落ちる。
通常では有り得ない腐敗現象を巻き起こすブレスを放つ黒い鷲は余計に不幸の象徴として、凶鳥として人々から恐れられている。腐敗現象自体は高位の神官なら治癒も可能なのだが、民間人に高位神官の治療を受けられるだけの治療費を払う事は到底できない。国民も神官の属する神殿全体が金の亡者と化し賄賂が横行する社会の暗黒面と成りつつあると認識している。それほどに近頃の診療価格は高騰している。実に平均的な一般人の平均的収入の実に数十倍という額だ。よって、黒い鷲に対する恐怖心は強くなる。もし遭遇すれば命運尽きると同義なのだと勝手に刷り込みのごとく認識してしまうからだ。人々の黒い鷲のブレス攻撃への対処法は高位神官による治療以外ないし、知り得ないのだから仕方ない。
基本的にダンジョン化した地域内の害獣が地域外に出没する、つまり地域内から出てくる事態はほとんど起こりえないが黒い鷲は自然の理に反する存在であるため割と出没する。出没しては不幸を撒き散らすのだから質が悪い。しかし、黒い鷲が第二級扱いなのはブレス攻撃の危険性を考慮した結果であり、身体能力的には第三級が妥当なレベルだ。ブレス対策さえすればフィルの友人らだけで十分に討伐し得る。それに危険性が高い分、報酬も高い。ダンジョン化した地域内の害獣の特徴である息絶えると魔石を残し消失する性質も健在である。
ダンジョンは異界として認識される。内部と外部では理が異なるのだ。普通、オスとメスが交尾し受精することで新たな生命が誕生しやがてメスが出産する。人やその他の種族、害獣にも適応できる普遍的な自然の理であるが、ダンジョン内ではその理を度外視し原理は判明していないが害獣が沸く。それ以外形容仕様がない。何もない空間より害獣が出現する、そんな不可解な異空間、それがダンジョンであり、ダンジョン化とは元より自然の理の範囲内だった一定の区画がダンジョンと同じ性質を持つ空間に変化することをいう。不覚的ではあるが悪神の封印場所付近に無作為な形で起こる現象だ。
最果ての山脈はそんなダンジョン化した場所の中でも特異で黒い鷲の棲息数は大陸随一。それに比例して被害件数も大陸随一だが、最果ての山脈内ではダンジョンであるにも関わらず外界の自然の理に影響を受けており、他のダンジョン化した区域とは異なって内部で一定数以上の害獣を殺すと出現速度が極端に遅くなる。また、内部で黒い鷲がつがいをつくっていたという報告もある実に不思議な場所だ。棲息数故に騎士団の方の黒い鷲が時折立ち入るらしいが、些事だ。
内部に侵入したフィルを感知してか早速黒い鷲が飛び掛ってくる。第三級程度の身体能力だが、人間の骨格を破壊するには十分過ぎる威力を内包している。フィルは単純作業をするように闇の魔力剣を即時形成し一閃した。凶鳥の名に相応しい不気味な断末魔を上げ、一文字に切り裂かれた黒い鷲は魔石を残し消える。飛び散った羽も薄らと色素を失い、やがて空間に溶けていった。魔石を拾ったフィルは亜空間に収納する。魔石とはダンジョン内の害獣が保持する魔力を全て凝縮した物質のことでギルドで換金できる。黒い鷲レベルになると一個当たり三十万ギル、相当質が良ければ五十万は固い。
値段は危険度によって圧倒的に違う。第十級から六級は高くても精々一万から二万ギル、五級以上で五万ギル以上の価値を持つ。仲間の断末魔を聞き及び集結してきた凶鳥達はフィルを視界に収めた瞬間に胴体を破裂せんばかりに膨張させて空気を吸い上げる。吸い上げた空気に体内に含んだ瘴気を混ぜ合わせ、一斉にブレス攻撃を繰り出した。瘴気を帯びたブレスはドス黒く禍々しい風となってフィルに殺到する。それら全てを闇の障壁で防ぐ。壁に打ち当たり拡散するブレスは空間を黒く染め上げる。数秒で根本である瘴気自体が拡散し効力を失ったブレスは通常の無害な空気に分解されていく。
必殺の一撃を防がれ、不機嫌そうに鳴き声を上げる黒い鷲。不気味な声は山脈全体に広がって木霊する。そして山彦となって戻ってくる。とても不快だ。不造作に片手を天に掲げたフィルは呪文を口にしつつ影より多量の闇を生じさせた。
「我が闇よ、愚かなる敵に死より苦しき痛みの連鎖を与え穿ちて抉れ鋭利なる漆黒の槍よ、生者を残さず亡者の生み出せ、追跡する暗き闇槍の使い《ダークチェイスランサー》」
追跡機能付きの闇槍の大群がフィルの頭上を旋回し飛び回る黒い鷲を次々に穿っていく。この魔法を防ぐ手立ては槍の持つ殺傷能力を超える強度の防御方法を使用するか槍を全て破壊する他ない。フィルがもし相手にこの魔法を使用された場合は圧倒的な魔力で魔法を捩じ伏せる超力技を発動する。フィル自身はちまちました繊細な魔法が好きではない。大雑把で派手な魔法を好むわけでもないが。ボロボロと雨のように降る魔石を亜空間内に回収して一通りの黒い鷲を狩ったことを確認したフィルは次の狩場へと向かった。
ちょっと、いやかなり少なめです。次回はフィルの友人達の狩り風景をお届けしたいと思います。あと、お陰様で30000pv突破です。ありがとうございます。




