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闇を背負う者、破壊を有す  作者: 松佐
破壊の使徒
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破壊の使徒の友人達の諸問題2

揺れや空気の抵抗が無い程度でしかし迅速に闇夜を疾走するフィルの背中で少女ベルが目を覚ます。フィルは前方を直視しているためベルの表情は見えないが恐らく寝ぼけ眼を擦っているのだろう。初めて会った時もその仕草をしていた。


「ん、ん?フィルさん?」


「久しぶりだな、ベル。元気してた、わけないか」


「うん。でも、フィルさんが治してくれたんでしょ?お手々もちゃんとついてるし」


「まあ、べルのお兄ちゃんにお願いされたからな」


「お兄ちゃんを知ってるの?」


「学園の同級生だよ。事情は後で説明するけど、魔法を使って戦う大会あっただろ?君のお兄ちゃんも出場者になった。でもこの国が大会に出場すれば君の治療を打ち切るって脅迫した、だから俺が助けに来たわけだ。ベルを救出すること以外にもやらなきゃならないことがあるけどな。先んず、君を俺の知り合いに預けるから、その人にエルシアまで連れて行って貰え」


「うん、ありがとう」


ロリコン属性持ちにはさぞ高い威力を誇る笑顔だろうが幸いフィルにそんな属性はない。フィルにとってベルは妹みたいなものだ。建築物の屋根から屋根へ跳躍し道をショートカットしながら疾走すること十分、かなり裕福な人物が主であろう豪邸の前にフィルは降り立った。ベルは少し気圧されたような気配だが、フィルは小指の爪ほどの遠慮もなく門に打撃を入れる。もっとも、これはフィルに屋敷の主が来客を判別するために要求した行為である。数秒して慌てたように屋敷の中から人が現れる。二十代半ばの女性だ。


「あら、久しぶりね」


「ああ。だが、暢気に話してる暇もない。要件だけ言うからな」


「分かってるわ。昔からせっかちだから」


「この子をエルシアの魔法学園まで連れて行って欲しい。それと例の計画を実行に移す。連絡を回せ」


「そう、ついに終わるのね。了解したわ」


「じゃあ、ベル。お姉さんの言うことをしっかり聞くんだぞ」


「うん」


ベルを女性に預けたフィルはまた疾走を開始する。次はエミリーの家族だ。移動中に大体の位置は把握した。愚鈍な王は浅はか過ぎる。重要なところには必ず大量の兵士を配置し見張らせている。そのうち、何の変哲もない民家なのに兵士に包囲されていた場所がそうだろうと当たりをつけた。フィルは一陣の風となりて闇の中を突き進み、見回りの兵を次々と無力化していく。あっさり民家に辿りついたフィルは礼儀正しく夜分に申し訳ありませんと断りを入れてから事情を説明した。


今の時点でエミリーの家族をエクリアに住まわせた状態では解決できない。解決策として安全策としてエルシアへの移住をフィルは提案した。提案には賛成すると一家の家長であるエミリーの父はただ金銭的に困難であると苦々しげに語った。彼としても歯痒いのだ。父であり家族である自分達が愛娘の障害となっていることが。親の贔屓目に見ても娘は素質を持っている。その素質を活かせる環境で学ばせてあげたい一心で金策に駆け回ったし、自分らの知りうることは可能な限り教えた。


エミリーは彼らの自慢の娘だ。貧しい時もひもじい時も文句を言わずにいつも笑顔でいてくれた夫妻の心の支え、そんな娘を妨げるために利用されることほど悔しいものはない。涙ながらに語る二人にフィルはさらに提案を持ちかける。


「移住することに関しては賛成なら話は早い。家やその他必要な日用雑貨なども全て俺が提供する。安心して国から出てほしい。貴女方の安全さえ確保できればエミリーの悩みの種もなくなるからな。エルシアに住めば毎日でも会えるし、何より安心だ。そうと決まれば迅速に行動してもらう」


「何故、そこまでしてくれる?うちの娘と出会って二ヶ月程度なのだろ?普通、出会ったばかりの友人のために家を用意するのか?」


「俺にとって友人という存在は唯一無二で絶対的に優先すべきものだ。困っているなら助けの手を差し伸べる。自分のできる最大限の手助けをする、そう決めてるからな」


「だが、本当にいいのか?」


「心配しないでいい。俺はこう見えても金持ちだ。財産は普通の公爵家と同等に思ってくれてもいいからな。それくらい稼いでるんだ」


フィルは誇らしげに笑う。それにつられてエミリーの父も笑う。緊張感にかける行為ではあるがそれは意識の外に置いておく。話が纏まったところで闇を作り出しエミリーの家族を全員包み込んであの屋敷まで運び、あの女性に任せてから王都内で一番警戒が厳重だった区画、裁かれる前の罪人達が収容された拘留所に向かう。


本当に警備は厳重だ。五mに一人、均等な間隔をあけて兵士が配置され、規則正しいその配置は進軍前の軍隊を思わせた。配置に関しては賞賛に値する。それは配置された兵士が闇夜よりも黒い暗黒の鎧を身に付け黒い鷲が描かれた軍旗を掲げていなければだ。ただただ不吉な雰囲気を発する集団だが練度は普通の騎士団とそう変化はない。幹部クラスはそれなりに強いが、末端の兵士など有象無象等しい。短期で決着をつける、フィルはそう決意した。


闇属性がその真価を発揮する時間帯、それは闇に支配される夜。今だ。昼間は自身の影を基点に闇を生み出すが夜はその必要がない。闇はそこら中に溢れている。大容量の闇を津波のごとくうねらせて兵士を拘留所の端へ端へと押し流す。すぐに異変に気づかれるが大した問題ではない。拘留所全域に闇を張り巡らせ、囚われた人狼とエルフの子供達を捜索する。


そして見つけた。拘留所の中央部、一番容積の広い牢の中に一緒に囚われている。闇に伝わる感覚では害を加えられた形跡はないが、あくまで感覚はである。事は一刻の猶予を争う。黒い鷲がいる時点で不吉さここに極まれりである。そんな場所に子供達を長居させるわけにはいかない。騒ぎを感じ取ったか行動を開始した気配を複数、闇を介して認識する。


その気配が向かう先は子供達がいる牢だ。本当に面倒くさいと誰にでもなく愚痴をこぼしたフィルは中央への正確な方位を計測し、結果で判明した方向を向き、そして最短距離を直進する。彼の選んだ最短距離は拘留所の壁をぶち抜くことにほ他ならない。壁が破砕する轟音に就寝していた囚人が目を覚ますがフィルは壁をぶち抜いているだけで牢は避けている。故に脱獄を手伝うことにはなっていない。


どうにか気配が子供達のいる牢に到達する前に間に合ったフィルは子供達を闇で包みこんで亜空間の中に回収する。亜空間内には空気もちゃんとあるため問題はない。こうすればフィルが死なない限り彼らは絶対に安全だ。回収し終え、さあ離脱という時にフィルは囲まれた。一応、全身を闇でコーティングする。その姿は真っ黒い人が他の物体なのだが顔を隠すちゃんとした手立てである。本人はあくまで大真面目だ。不審者っぽいなどと行ってあげないでほしい。


「貴様か!可愛い部下を殺したのは!」


「いや、殺してないからな」


突然の言葉にフィルは思わず素で返してしまった。


「あ、そうなのか。なら、いいか」


「いいのか!?」


フィルは素で驚く。なぜって質問は終わりだってオーラ全開で周囲を囲んでいた数人が解散していったからだ。おかしなやつらだなと思いつつ割と普通に脱出したフィルはそのままエルフと人狼、それぞれの集落に行き、子供達を返してきた。二人の友人を亡くして以来、久しく訪れたことのなかった場所だ。懐かしさと苦々しさを彷彿とさせられる。集落の方々は暖かく出迎えてくれる、それは二人の友人を亡くす前も亡くした後も永久的に変わらない。そう、分かっていた。


けれど、そうやって出迎えられる度に申し訳なさで押しつぶされそうになる。大事な若い世代の二人を助けられなかった自分が責められることなく居ていいのか疑問にさえ思うのだ。あの頃の不甲斐なかった自分から少しは成長できたかな、と己を振り返る。


結局、長居をしたわけじゃない。フィルはフィル自身の最後の役目をきっちり果たす。王都の戻った彼は強固さだけなら大陸でも随一とまで呼ばれる国の王城を守る城壁を粉々に粉砕した。それが狼煙、それが始まり、それこそが合図。練に練った計画の集大成、それを人々はこう呼ぶ・・革命と。


結果、王城は陥落した。王族は皆、処刑された。これを機に国内の奴隷商人を排斥し不正を働いた悪徳貴族を次々と裁いていった。国内に巣食う膿を完全でなくとも大多数を排除した新生エクリアは国名をエクリアよりエクシリアと改名した。過去に全国王が犯した罪は一般大衆にも包み隠さず伝えられ、公式の場で新国王は前王の被害を受けた国々に謝罪した。誠心誠意、そんな言葉が似合う真摯な新国王の姿に溜飲を下げた各国はエクシリアを正式な国として承認する。新国王は若く未だ学生らしく諸事情から本来の顔を隠し偽装しているが各国の王は自分らも似たような者のため大して気にしなかった。


新国王の名は判明している。その名はフィル・ランス・エクシリア、エクシリア王国初代国王である。それはともかく革命後の事後処理を仲間と共に猛スピードでこなしていた国王様は当然のこと数日をエクシリアで過ごしエルシア戻るのが随分と遅くなったことは言うまでもない。政務に関しては優秀すぎる参謀さんがいるため問題ない。フィル自身、その参謀に国王をさせるつもりだったが最終的に押し付けられる形となった。


エルシアに帰ってきたフィルは友人達から悩みの種が消えている様子を確認して安心した。所詮は自己満足に過ぎない行為だが今は亡き友に誓った言葉を守り続けて生きたいと思った。

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