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闇を背負う者、破壊を有す  作者: 松佐
破壊の使徒
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破壊の使徒の友人達の諸問題


Sクラスの三人を闇属性の下級魔法のみで相手し圧倒したフィルは否応なしに学園内で有名になる。九大公爵家に連なる者に、しかも三対一で勝利したのだから、それは自明の理だ。この国において九大公爵家は最強の象徴であり最強の国家戦力なのだ。敗北した三人には相応の罰がくだされたようだ。それについてフィルが特に思うことはない。実力主義を謳うヴァラレイ家ではありがちな出来事だ。


あの決闘から一ヶ月、二ヶ月後に差し迫った例の大会が関係してか訓練の授業は一層、内容が濃くなった。国家の威信に懸けて敗北は許されない。優勝を掴み取る、事実上国からの絶対命令に等しい。今回の大会で新入生の部はフィルを含め彼の友人達の出場がほぼ確定している。実力はSクラスと比べても遜色ないほどだ。教師側からは大いに期待されている。個人戦の出場は学年毎に六人まで団体戦も六人三組で個人戦は既にフィルらで席が埋まっている。


Sクラスから個人戦への参加者はゼロという異例の結果となったが身から出た錆とはよく言ったもので立て続けに決闘を挑んで出場者に手酷く返り討ちにされている。多彩な属性を操り近接戦闘までこなす万能型のリオン、フェアリーの種族属性である幻惑と風属性を駆使し戦うエミリー、強靭な肉体と斬撃属性を合わせて戦う近接戦闘特化のウィルガ、多数の精霊と契約し種族固有の精霊魔法を使うニーナ、卓越した防御魔法使いのカイ、そして底知れない実力者フィル。今年の新入生中最高峰の能力を誇るのは間違いなくこの六人だ。


ところで。試合がある場合は対戦相手の情報を探る行為が当然のように行われる。それは普遍的なこと。故に六人の情報も周りをいくら固めていようが漏洩してしまう。大会に参加する各国の魔法学園は第一回大会から連覇記録を積み重ねてきたエルシア王国高等魔法学園を打倒しようと躍起になっており、今や手段を選ばないレベルに至っていた。中でも隣国兼大会開催地のエクリアにあるエクリア高等魔法学園は過激であることで知られていた。


毎年のように圧力を掛けきて、時には脅迫状を叩きつけるなんて行為も簡単にする連中だ。いつも狙われる対象は新入生だ。今年も例外はなかった。非道で悪辣な脅迫、エクリア高等魔法学園の連中はフィルとリオンを除いた四人の親兄弟、ひいては一族やその集落を人質にとったのだ。エミリーは評判のよくないエクリア高等魔法学園に入学するのが嫌でエルシアの方に来たが、元はエクリアに住んでおり家族は当然、エクリアにいる。エクリアはエミリーが隣国の魔法学園に行ったばかりか自国の魔法学園と敵対したとして国家反逆罪とし今後の行動次第で彼女の代わりに彼女の家族を即処刑すると脅迫した。


カイにとっての血の繋がった家族は既に彼の妹一人しかおらず、数年前に指先から徐々に身体が腐り始める謎の奇病を患い、医療関連の魔法が発達したエクリアの魔法病院に入院している状態で今のところ進行を遅らせることで延命をしていた。しかし、エクリアは彼の妹の治療を敵対し続けるなら終了すると脅迫した。


そしてウィルガとニーナはそれぞれ一族の子供達をエクリアに拉致され、人質に取られている。ウィルガの一族もニーナの一族も種族の特徴として生殖能力がそれほど強くない。そんな一族にとって未来ある子供達は千金に勝る宝物、四人とも酷く苦悩した。非道な脅迫に屈服したくないが、大事な人を人質に取られている。その情報は直ぐに教師陣の知るところとなるが、現状は最悪で下手に動けば見せしめに何人か人死が出る危険性がった。四人は悲嘆に暮れていた。最善の回答が出せないでいる。時間だけが過ぎ去る。そんな友人らを見ていたフィルはふと口を開いた。


「俺がどうにかしてやろうか?」


「出来るのですか?」


「俺はな、弱いもの虐めやアンフェアなのは基本的に嫌いなんだ。エクリアは最もたるそれだな。お前らは大会で卑怯者共を叩きのめす準備でもしてろよ。きっちりかっちり約束は守るから。そもそも、漸く通じ合って休み時間毎にイチャラブしてるバカップル二組がここ数日、そのなりを潜めてるせいかクラスの雰囲気も沈んでる。絶対、どうにかするから調子戻せよな」


「あ、ああ」


ウィルガは弱々しく返事を返すが、その瞳には少しの困惑と希望が宿っている。フィルは約束を破らない。すると言えば、宣言通り律儀に最後まで完遂する。絶対の信頼を寄せてもいい、そんな人物だと二ヶ月間接してきた四人は確信している。どの道、自分達にはフィルを信じて来るべき時に備えるしかできはしない。即実行なのかフィルはさっさと出ていった。呆然とする四人を見て、リオンがクスリと笑う。心底、面白そうに。心底、楽しそうに。四人も自分達が間抜け面を晒していた自覚があったため甘んじてリオンの笑いを受け止める。


行動を開始したフィルが最初の目的地をカイの妹が入院している魔法病院に定めた。指先から身体が腐り始める奇病、安直に腐敗病と名付けられた病の正体は第十級虫系害獣の、正確には寄生虫系害獣の持つ特性である吸血により指先に流れる血が根こそぎ吸い取られた結果、血の通わなくなった指先が壊死していくというものだ。寄生虫は寄生先で繁殖し腐敗速度は徐々に増していく。奇病と言いつつも普通の虫下しを飲めば簡単に治る病気であるが壊死し腐り落ちた部分は元に戻らない厄介な病気でもある。


エクリアはエルシアの西に位置する絶対王政の国。現国王は率直に言って愚かしい欲塗れのデブだ。脂ぎった肥満体の男で加齢臭が凄まじい。各国の王から豚と陰口を叩かれていたり、真っ向から侮蔑の言葉をぶつけられたり、各国の王から嫌悪しか抱かれていない。というのも彼の王は前述の通り欲の塊だ。お忍びで各国に旅行しては町娘を犯したり拐ったり極悪非道を地で行く人物でエクリアより規模の小さい国ほど被害は多い。世界の傾向として小国の王の方が大国の王より賢君なので民が被害を受けることを良しとしない。


そんな王が収める小国同士が申し合わせてバレない程度の頻度で暗殺者を差し向けているのは彼の王だけが知らぬ周知の事実である。それはともかくとしてエクリアがエルシアに勝ちたがる理由は連覇記録を破りたいのもあるが、実のところ半分以上は王同士の仲が険悪故だ。元々どこの魔法学園に入学するかは自由であり、それを敵対及び国家反逆罪なんて無茶苦茶な言い分を自信たっぷりに宣言する頭の悪い愚王の所為で自分の友人らが迷惑している、それだけで許し難いのにあの豚は反省を知らないらしい。かつてフィルがエクリア全体ひいてはその元首たる国王に警告を発したにも関わらず彼の国は彼の王は懲りることを反省することを知らないと見える。


リオンも内心では激怒していたと付き合いの長いフィルは分かっている。ほんの三年前、二人と一緒に冒険者をしていた人狼族の少女とエルフ族の少年を彼の国の彼の王は殺した。二人を辱め二人の肉体を二人の精神をも壊しエクリア城下で最大の面積を誇る大広場、そこで多くの民衆に見せつけ二人の首をギロチンで切断した。それに対して報復を制裁を加えた。城を半壊させ、二人を壊した後宮の女共、彼の王の王子と王女を皆殺しにして彼の王自身にも全身の骨が粉砕される痛みを幾度も味合わせ今後、人狼族とエルフ族に手を出せば今度こそ命はないと完全に殺すと警告した。


それを彼らは破った。惨劇から何も学ばず、またかけがえのない友人らを傷付けようとする。フィルは予てより計画していた事を実行に移すと決めた。下準備は二年前に終了しており、後はフィルが合図すれば計画は始動する。エクリアまで続く街道を一気に走破したフィルは門の直前、門番がギリギリフィルを視認不可能な位置で跳躍する。音もなくエクリア王都を囲む外壁の上に着地し休まず数度跳躍を繰り返す。王都内の地理は完璧に理解していた。


フィルは数度の跳躍で最終的に王都で一番の高さを誇る塔に着地した。その塔こそ魔法病院だ。フィルは自信を闇で覆い、暗闇に紛れて院内に潜入し、階段を探す。発見した後はひたすら下へ下へと下降する。腐敗病は原因不明の病として恐れられ地上ではなく地下に収容されている。入院など高尚な言葉を使う必要はない。病院が実際に行っているそれは隔離や監禁と同義なのだ。


そして患者が隔離されている地下に辿りついたフィルはフロア全域に闇を散布し、患者の内部に侵入させる。そのまま血液の流れに闇を乗せ、寄生虫を発見させ次第死滅させる。救える命なら救うし、救える命は見捨てない、それはフィルが・・かつて友人を救えなかった少年が自身に友人に誓った言葉だ。完全に寄生虫を死滅させ尽くした後は闇を患者の体内から排出し再生の魔力で腐り落ちた部分を元に戻す。そして見知った少女、カイの妹ベルを背負い外に出る。第一のミッションコンプリート。



10,000PV突破!!読んでくださった皆さんに最大の感謝を捧げ、今後も精進したいと思います。

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