5話:一学期に飽きるほど買った女
金を払って好みの女を抱くのはいつだって気分をウキウキにさせる。鹿島先輩とのやり取りを機嫌よく終え、さあ寝ようと思っていると別の女から連絡が入った。
『明日、会えませんか?』
送り主は初瀬小春。うちの一年で、去年俺が買っていた女の妹だ。
その姉の初瀬千夏は俺が高校へ入って初めて買った女となる。顔立ちの整った女で、金を渡せばその分だけ一緒に楽しみ、卒業と同時に関係も終わった。後腐れのない割り切った遊びをしていたわけだ。
千夏が卒業し、入れ替わるように妹の小春が入学してきた。妹がいるとは聞いていたが、本人から自分を買ってほしいと持ちかけられるとは思わなかった。
しかも姉に負けず可愛いし、姉妹の違いにも興味があったから試しに応じてみれば思った以上に遊び甲斐があった。四月の半ばから夏休みの終わりまで、何度家へ呼んだか覚えていないほどだ。
暇な日には外へ連れ出し、飯を食わせ、最後は俺の家。最初こそ自分が楽しめれば十分だったのに、途中からは小春をどこまで喜ばせられるか試すほうに夢中になっていた。八月など、我ながら猿かと思う頻度で楽しんだってもんだ。
だけど、どれだけ気に入った遊びでも続ければ飽きは来る。九月に入ってからも買ってほしいと何度か頼まれたものの、そのたびに断ってきた。
小春が嫌いになったわけではない。しかし、他にもやりたいことはある。積んでいたゲームの消化だったり、Eスポーツ部の中島と飯を食いに行ったりだ。最近は二人でラーメン屋を回るのがちょっとしたブームになっているしな。
『買ってほしいって話なら、今はパス』
先回りして釘を刺すと、返事まで少し間が空く。
『違います。ただ普通に遊びたいだけです』
それなら話は別だ。明日の鹿島先輩との待ち合わせは夕方。昼間に小春と出かけても十分に余裕がある。
◇
昼前に駅へ着くと、小春は改札前の柱にもたれて俺を待っていた。
百六十八センチほどある身長は俺より高く、細身で手足も長い。黒いロングヘアが特徴で、黙っていれば清楚な美少女といったところだ。姉に似た整った顔立ちだが、身体つきは小春のほうが俺の好みに合う。
今日は淡い色のワンピースに薄手のカーディガン。髪の毛先まで緩く巻いており、明らかに手が掛かっているのが分かる。
「すまん、待たせたか? 今日は随分と気合いが入ってるな」
「久しぶりに英子先輩と出かけるんですから、普通ですよ」
「一ヶ月程度で久しぶりってのは変な気もするけどな。まあ、それはともかく似合ってて可愛いよ」
事実を言っただけだが、小春は嬉しそうに微笑み、すぐに俺の隣へ並んだ。
「それで、今日はどこへ連れていってくれるんですか?」
「誘ったのは小春だろ」
「行きたいお店は決めてあります。でも、先輩にもどこかに連れていってほしいかなって」
「いきなり過ぎるぞ。とにかく行きたい店があるんだろ? そこに行こう」
無茶振りに応えるのも大変だ。今回は適当に昼食でお茶を濁せばいいだろう。
小春に案内されて駅ビルの服屋へ入ると、棚から二着を抜き取り胸元へ順番に当ててみせる。
「どっちがいいですか?」
「……右だな。左も悪くないけど、そっちのほうが身体の線が綺麗に見える。背があるんだから活かしたほうがいい」
「即答するうえに、見るところがいやらしいんですよね」
「服を選ぶのに身体を見ないでどうするんだよ」
俺の言葉に呆れたような反応を見せるが、小春が試着室へ持っていったのは右の服だ。
着替えて出てくると、鏡の前で何度も角度を変えている。腰の位置が高く見え、細い身体にもよく合っていた。本人も満更ではないのだろう。
「うん。やっぱり可愛いな。少なくとも私の好みだ」
「……じゃあ、これにします」
「別に私の好みに合わせる必要はないだろ?」
「ありますよ。せっかくのデートなんですから当然考慮にいれます」
遊びに来ただけでデート扱いは気になるが……まあいいか。小春も喜んでいることだしな。
会計を終えた小春から紙袋を預かる。ここから俺がエスコートする番だ。
昼飯は前から気になっていた洋食屋へ連れていく。休日らしく列はできていたものの、時間にはまだ余裕があるから問題ないだろう。店内はおしゃれな内装で自分一人ではあまり来たいとは思わない。そういう意味でもちょうど良かった。
テーブルへ案内され、互いに選んだ料理を注文する。小春は以前一緒に外出した時の話や、最近買った本の話を途切れなく続けた。そして遅めの昼食を終え、食後のコーヒーに口をつけたところで小春がスマートフォンを取り出す。
「このあと、映画を見に行きませんか?」
画面には、近くの映画館の上映案内が開かれていた。
「終わるのが五時過ぎか……今日は無理だな」
「何か用でも?」
「夕方から用事がある」
「用事……それは英子先輩の家でですか?」
……妙な聞き方だ。こちらの予定を探るような目をしている。
「そうだと言ったらどうなんだ?」
「……いえ、聞いてみただけです。なら、映画以外でいいのでどこかに行きましょう」
小春は言いたいことを飲み込み笑顔を作ったように見える。気にはなる――が、わざわざ考慮してやる必要もない。
「ならゲーセンだな。適当に歩いて回るにはちょうどいいだろ」
洋食屋を出たあと、近くのゲームセンターへ入る。
俺一人なら対戦ゲームへ直行するところだが、小春に引かれてプリントシール機の筐体へ収まる。正直なところ何が面白いのかは分からん。それでも連れてきた以上、愚痴は飲み込んで小春の希望に付き合うしかないな。
最後はクレーンゲームだ。小春が欲しがった猫のぬいぐるみを、店で買ったほうが安い程度の金をつぎ込んで取り出し口へ落とす。
「ほら」
「ありがとうございます!」
ぬいぐるみを抱えた小春が俺の腕に抱きついてくる。見下ろされる身長差なのに、こうして甘えられると年下なのだと実感する。さらに指まで絡めてくるが、小春の好きにさせてやろう。
駅前に戻ってきて時計を確認すればそろそろだ。鹿島先輩との待ち合わせ場所に向かうにはちょうどいい。
「小春、今日はここまでな」
「もうですか?」
「これから用事があるって言っただろ」
絡んでいた指から力が抜ける。
「……誰かと会うんですよね?」
――やはり察しているらしい。だからといって、すべてを話す筋合いはない。
「部活の先輩だよ」
「その先輩とゲームをして遊ぶ……というわけじゃ、なさそうですね……」
「さてな。私からは言えないね。自分で想像してくれ」
小春の視線が俺の顔から手元へ落ちる。さっきまで嬉しそうに抱えていた猫は胸元で少し潰れていた。
「……はい。想像は、できました」
「なら話が早い。ではな」
預かっていた紙袋を返すと、小春は両手で受け取った。以前なら最後は笑顔で別れていたものだが、今日はそうもいかないようだ。
「先輩」
「ん?」
「今日は、ありがとうございました」
「ああ。また普通に遊びたいなら連絡してこい」
小春は少し間を置いてから、はい、と答えた。
背を向けてスマートフォンを取り出すと、鹿島先輩はもう待ち合わせ場所へ着いているようだ。――思ったより早い。歩けば十分に間に合うが、待たせておく理由もないな。
俺は短く返信し、鹿島先輩のいる場所へ足を向ける。
結局、小春は最後まで体を売りたいという話はしてこなかった。ただ、何かの不満を抱えているのも確かだろう。だとしても、俺は俺の好きにやるだけだ。女の不満になんざ付き合っていられるか。




