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女を買うクズなのに、なぜか彼女たちに執着される~逆行転生したTS娘は面倒見のいいクズ野郎~  作者: RCAS
TS逆行転生した女は女を買う

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24/40

24話:先輩って、空っぽな人ですよね

 三連休最後の午後。小春と向かい合って分かったことがある。


 ――こいつは俺に叱られたくらいでは、少しも懲りていない。


 駅前の喫茶店は休日らしく混んでいたが、奥の二人席までは周囲の話し声も届きにくい。


 小春は紅茶へ口をつけるでもなく、俺の顔を楽しそうに眺めている。写真の件で呼び出した時と同じ目だ。


「結局、何も変わらなかったぞ」


「何の話ですか?」


「お前が言っていた、三人とも私に恋してるって話だよ」


 昨日は真琴と遊び、その前日は鹿島先輩の家へ顔を出した。どちらも普段どおりだ。


 真琴とは馬鹿な話をして笑い、鹿島家では颯太くんと美羽ちゃんも交えて昼食を食べただけだ。愛の告白もなければ、体を買うことすらない。


「お前の考えすぎじゃないか?」


「私の勘違いかもしれませんね」


 否定も肯定もしない返事だった。小春はカップの取っ手を指先でなぞり、すぐに俺へ視線を戻す。


「じゃあ、今日は私を買いませんか?」


「いきなり話が飛んだな」


「久しぶりにゆっくりお話しできるんですから、いいじゃないですか」


「たかが一週間程度で久しぶりとか言うな。それに私はお前に不信感を持ってるんだが?」


 悪用しないと言って撮った写真を真琴へ送り、鹿島先輩にも見せた。約束の穴を使っただけで破ってはいない――などという理屈を完全に飲み込むつもりはない。


 小春だってそれくらい分かっているはずだ。一学期から夏休みまで飽きるほど一緒にいた。俺が何を嫌がり、どこまでなら笑って済ませるか、知らないとは言わせない。


「分かっていますよ」


「なら、私が買うと思うのか?」


「思います。だって、英子先輩はそういう人ですから」


 妙に自信のある言い方だ。さて、何を言いだすことやら。


「どれだけ一緒にいたと思っているんですか? 私、先輩のことをちゃんと見てましたよ」


「見ていた結果、信用をなくしても買ってもらえると?」


「――違います。すぐには無理かもしれない。でも、結局はまた同じところに戻って来るんじゃないですか?」


 小春はそこで初めて紅茶を一口飲んだ。カップを戻す動作は静かなのに、俺を見る目だけはまっすぐで逃げる気配がない。


「先輩って、空っぽな人ですよね」


「……」


 予想していなかった言葉に返事が遅れる。


 俺の反応に確信を得たのか。小春は得意げに語り出す。


「ゲームも本気でやるし、人の相談にも本気で乗る。鹿島先輩の家のことまで、ずっと面倒を見ていたんでしょう? 遊びに行けばちゃんと楽しませてくれるし、私を抱く時だって手を抜かない。何でも本気でやるから、一見するとすごく充実してます」


「……褒めてるのか、それ?」


「ここまでは」


 なるほど、この先が本題らしい。


「でも、先輩自身がどうしても欲しいものって――何もないですよね? お金には困らない。進路にも困ってない。ゲームに負けても次がありますし、誰かと遊びたければ相手を見つけられる。女の子を抱きたくなったら、お金を払って呼べばいい」


 図星――この表現がぴったりだった。


 小春の言う通り、俺は金を持っている。それも、普通に暮らしていれば使い切るほうが難しいほどに――


 勉強も進路も将来の生活も、失敗したところで大した傷にはならない。未来知識が尽きたあとで何ができるのかという興味はあっても、明日を失うような切迫感とは無縁だ。


「何かに熱中しているように見えて、なくなっても別の暇つぶしを探すだけ。そんなだから、恋愛を嫌って女の子までお金の問題で済ませたくなるんじゃないですか? 相手が本気になってしまったら、お気楽な人生なんて言えなくなってしまいますからね」


 随分と痛いところを突いてくる。でも、俺の真実に片足を踏み込んでいるのは確かだ。


 小春が俺の前世を知るはずはない。それでも俺と一年に満たない付き合いだけで、ほとんど答えへ辿り着いていた。


 ――前世の俺は、一人で生きることを苦にしない人間だった。


 誰かと過ごすのは嫌いではない。友人と遊べば楽しかったし、気の合う相手との時間には相応の価値も感じていた。


 それでも、一人になったからといって寂しさに耐えられなくなることはない。自分の時間は自分で潰せたし、他人へ人生の意味を預ける必要も感じなかった。


 あの頃は金のために生きていた。


 生活するために働き、未来の不安へ備えて金を残し、もっと金があれば自由に生きられると思っていた。


 新しい人生では実際にその金を手に入れた。生活の心配も、進路の不安もない。失敗してもやり直せるし、欲しいものの大半は金でどうにかなる。


 だが、金を得れば人生そのものが楽しくなるわけではなかった。


 金が消してくれるのは不自由だけだ。空いた時間へ何を置けば満たされるのかまでは教えてくれない。


 だから前の人生では存在しなかった目新しい部活へ入り、興味を持った遊びへ手を出し、困っている人間がいれば首を突っ込む。女を抱きたくなれば金を払い、その時間を本気で楽しむ。


 違う人生を歩む努力はしている。ただ、所詮はただの努力に過ぎない。本気で向き合っているかと言えば自信はない。


 結局……俺の本質は何も変わっていない。俺は俺だ――柚木英子という人間になっても、そこだけは同じだった。


 何もしなくても満たされる人間ではない。自分から楽しみを見つけ、それへ熱中している間だけ人生を面白いと思える。終われば次を探し、なくなれば別の何かで埋める。


 小春の言うとおり、つまらない人間なのだろう。


 そんなことは、指摘されるまでもなく理解している。いや、理解しているつもりだったからこそ、小春の言葉でここまで心が揺れるのか?


 だとしてもだ――小春の言葉程度で、この生き方を変えるつもりはない。


「……そうだ。小春の言うとおりだよ。だから何だ?」


 開き直ると言えばそれまでだ。でも、空っぽなら自分で面白いものを詰め込めばいい。それで二度目の人生を楽しめるなら十分だ。


 しかし、小春は俺の虚ろな綻びを指摘したと言うのに、勝ち誇るでもなく嬉しそうに笑っていた。


「じゃあ、いいじゃないですか。先輩のクズなところも、駄目なところも、私は受け入れます。暇つぶしでも、性欲を発散する道具でも構いません。だから――私を買ってください」


「……私の理解者気取りか? それもいいだろう。でもな、小春を信用できないことは別だ」


「あれま……これは手厳しいですね……」


「自分でそうしたんだろ。今日は買わない」


 小春は残念そうな顔をしたものの、食い下がることはない。むしろ、こうなることを予想していたかのようだ。


 ――ますます気に入らない。気に入らないけど……俺の心に楔を打ち込むのが目的だというのなら、大成功と言えるかもしれない。


 その後は会話も途切れた。会計を済ませて店を出ると、駅へ向かう人波の前で小春が振り返る。


「いつでも連絡待ってます。言い値で売りますよ。五千円でも、千円でも。英子先輩が買ってくれるなら――ただでも」


「ただなら買うと思うなよ」


「じゃあ、一円で」


「帰れ」


 小春は笑いながら手を振り、人混みへ紛れていく。


 小春は金が欲しくて俺へ近づいた女だった。姉の千夏さんから話を聞いてお小遣いほしさに体を売り始めたと、自分から言っていた。


 それが、とうとう一円まで値を下げた――もう、気軽で気楽な金だけの関係とか、とてもじゃないけど言い張ることはできないだろう。


 でも、小春は俺の理屈を無視するつもりはないようだ。少しでもいいから金が動けば、俺はまた「買っただけだ」と言い張れる……


 決して俺に対する思いやりなんかじゃない。値引きではなく、逃げ道を塞ぐための言葉として耳の中に残り続けた。

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