選挙ポスター
選挙まで二か月あまり。
事務所では候補者達が慌ただしく準備を進めていた。
その中で私の前には、一枚の大きな紙が置かれている。
「これが選挙ポスターか……」
何枚もの試作品が机に並ぶ。
あるものは国旗を大きく描き。
あるものは派手な装飾。
またあるものは文字ばかりが並んでいた。
私は一枚一枚見比べながら首を横に振る。
「ごちゃごちゃし過ぎね」
周りの皆が顔を見合わせる。
「そうですか?」
私は鉛筆を持つと、白紙へ簡単な絵を描き始めた。
一番上に候補者の名前。
真ん中に顔写真。
その下へ大きな文字で政策。
それだけだった。
ラインが思わず口にする。
「これだけですか?」
私は頷く。
「これだけでいいの。人は一度にたくさん覚えられないわ」
ヘルムも覗き込む。
「確かにな」
私はさらに紙へ書き加える。
仕事を増やす。
物価を安定させる。
子どもに教育を。
「難しい言葉はいらない。分かりやすい言葉を何度も繰り返す。それだけで十分よ」
ウス・ライも取材に来ており、感心したように頷く。
「確かに新聞も見出しは短いですね」
私は笑顔になる。
「広告も同じよ。一瞬で伝わらなければ意味がない」
候補者の一人が尋ねる。
「政策を全部書かなくていいんですか?」
私は首を横に振る。
「全部書いたら誰も読まないわ。興味を持った人が演説を聞きに来てくれればいいの」
皆が納得したように頷いた。
机の上には二十人分の候補者名簿が並んでいる。私はその名簿を見つめながら、小さく息を吐いた。
「二十人か……」
ヘルムが笑う。
「弱気だな」
私は苦笑する。
「全員当選するのは難しいと思うわ。でも、それでいいの」
皆が私を見る。
「最初から全部うまくいくなんて思ってない。まずは一人でも多く議会へ送り出すこと。そこから少しずつ広げればいい」
ヘルムは満足そうに腕を組んだ。
「その考え方なら長続きする」
私は完成したポスターを見つめる。
派手さはない。飾りもない。
ただ、名前。顔。政策。党名。
それだけだった。
私は静かに微笑む。
「選挙も広告も同じ一番大切なのは、分かりやすいこと」
そのシンプルな一枚が、やがて共和国各地の掲示板へ貼られていくことになる。




