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平和を望んだ少女は、戦争へ進む。 〜敗戦国の再建を目指した少女の誤算〜  作者:


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炭鉱の町

選挙活動が本格化し始めた頃。

私は候補者の応援演説のため、共和国有数の炭鉱地区を訪れていた。


しかし、町へ着いた瞬間、空気の重さを感じる。


空は石炭の煙で薄暗い。

建物の壁は煤で黒く染まり、道路もひび割れたままだった。


歩く人々にも笑顔は少ない。

駅前で演説の準備を始めると、一人の男性がぼそりと呟いた。


「政治家は選挙の時しか来ない」


別の労働者も腕を組む。


「どうせ口だけだ」


「話を聞いたって何も変わらん」


周囲からも冷めた視線が向けられる。

私は演台を見つめ、少し考えた。

そしてラインへ振り返る。


「演説はやめましょう」


「えっ?」


「まず現場を見るわ」


私は炭鉱会社の責任者へお願いし、坑道を案内してもらうことになった。

ヘルメットを被り、ゆっくりと地下へ降りていく。


湿った空気。薄暗い坑道。

岩盤を削る音が響いている。


私は周囲を見回した。


うーむ……素人目にも分かる。


坑道を走るコンベアーは、錆が浮き、ところどころ補修の跡がある。

掘削機も古い。動いてはいるが、振動が激しく、異音も聞こえる。


さらに坑道を支える木の骨組みへ目を向ける。

私は思わず足を止めた。


「この支柱……」


案内役が振り返る。


「どうされました?」


私は静かに支柱へ手を当てる。

乾燥し、ひび割れている。


「かなり傷んでいますね」


責任者は困ったように笑う。


「本当は交換したいんです。ですが予算が……」


私は周囲を見渡す。

手が回っていない……

そう思ったが、すぐ考え直した。

違う。これは見て見ぬふりに近い。


危険だと分かっている。

それでも交換できない。いや、交換しない。


戦争で資材も人手も奪われた。

インフレで資材価格も高騰した。

結果として、安全対策が後回しになっている。

私は小さくため息をついた。


戦争の影響は、こんな所まで残っていたのね。


昼休み。

私は労働者達と同じ食堂で昼食を取った。

豪華な料理ではない。

黒パンと温かいスープだけ。

向かいへ座った年配の坑夫が話しかけてくる。


「嬢ちゃん。政治家なのに、坑道まで入ったのか?」


私は笑って頷いた。


「現場を見ないと分かりませんから」


すると周囲の労働者達も少しずつ話し始める。


「掘削機は十年以上使ってる」


「部品もなくて騙し騙しだ」


「仲間も去年、落盤で亡くなった」


「危ないと思っても止められない」


私は一つ一つノートへ書き留める。


誰も遮らない。誰も反論しない。

ただ黙って話を聞いた。


夕方。


帰る準備をしていると、一人の若い坑夫が近付いてきた。少し照れくさそうに笑う。


「最初は帰れって思ってた」


私は苦笑する。


「そうでしょうね」


青年は首を横に振る。


「でも演説もしないで、坑道へ入って、俺達と同じ飯を食って話を聞いてメモまで取ってた」


少し間を置いて、真っ直ぐ私を見る。


「話を聞きに来ただけなのに、初めて政治家らしい人を見た」


私は驚いたように目を見開いた。

そして静かに微笑む。


「ありがとう。でも、話を聞いただけじゃ意味がないわ」


私は坑道を振り返る。

古いコンベアー。老朽化した掘削機。

傷んだ支柱。


「次は、変える方法を考えてくる」


青年は力強く頷いた。


「待ってる」


炭鉱の町を後にする馬車の中。

私はノートを開く。

そこには新しい課題が並んでいた。


『坑道の安全対策』


『設備更新』


『労働環境改善』


『鉱山技師の育成』


私は窓の外へ目を向ける。

共和国を変える。

そのためには、議会だけでは足りない。

現場を知り、現場から学び、現場で答えを見つける。それが、私の政治なのだと改めて心に刻んだ。

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