未来を託す者たち
数日後。
私は事務所で政策集をまとめていた。
すると扉が勢いよく開く。
「ちびっ子!仕事を持ってきたぞ」
ヘルムだった。
腕には一冊の分厚いファイルを抱えている。
ドサッ。
机へ置かれた拍子に、書類が広がった。
私は思わず目を丸くする。
「これは?」
「候補者名簿だ」
「……候補者?」
私は一枚目を手に取る。
そこには名前と経歴がびっしり書かれていた。
元軍人。医師。看護師。教師。商人。工場経営者。鉄道技師。農業指導員。鉱山技師。
年齢も性別も実に様々だった。
私は思わず感心する。
「すごい……肩書きだけ見ても申し分ない人達ね」
ヘルムは鼻を鳴らす。
「肩書きだけで選んだわけじゃねぇ。人柄も見た。信用できる奴だけだ」
ラインも名簿を見ながら頷く。
「女性候補も多いですね」
「当然だ」
ヘルムは即答する。
「戦争で男が減った。なら女にも国を支えてもらう。能力があるなら性別なんて関係ねぇ」
私は静かに微笑んだ。
「その考え方、好きです」
ヘルムは少し照れくさそうに咳払いをする。
「それでだ」
そう言って共和国全土の地図を机へ広げた。
「ちびっ子は前に話した通り、自分の領地から出馬」
私は頷く。
「ええ」
ヘルムは地図へ印を付けていく。
「その周りの領地にも候補者を立てる」
赤い印が一つ、また一つと増えていく。
「それから工業地区、炭鉱地区、港湾地区、この辺りは街頭演説の反応も良かった。手応えがあった場所だ」
私は地図を見つめる。
支持がありそうな場所ではなく。
困っている人が多い地域が並んでいた。
私はヘルムへ尋ねる。
「勝てそうな場所を選んだんじゃないの?」
ヘルムは笑う。
「違う。必要としてくれる場所を選んだ」
その一言に、私は深く頷いた。
「なるほど」
ヴィルも地図を見ながら言う。
「炭鉱も工業地帯も、物価高の影響を強く受けています」
ラインも続ける。
「帰還兵も多い地域ですね」
私は名簿を閉じた。
「この人達なら一人一人が、それぞれの地域で戦える」
ヘルムは満足そうに笑う。
「ようやく政党らしくなってきたな」
私は改めて名簿を見つめる。
今までは四人だけだった。しかし今は違う。
教師は教育を語れる。医師は医療を語れる。
経営者は産業を語れる。
元軍人は治安を語れる。
それぞれが、自分の経験を政治へ生かせる。
私は静かに呟いた。
「国は一人じゃ変えられない。だから仲間が必要なのね」
ヘルムは腕を組み、大きく頷いた。
「その通りだ。党ってのは、一人の英雄が作るもんじゃねぇ。志を同じくする仲間が作るんだ」
私は名簿を大切に閉じる。
この数十人が、シュタール労働者党の最初の候補者。そして、共和国の未来を託す最初の仲間たちだった。




