工場労働者
数日後。
私は首都郊外にある工業地区を視察していた。
案内役は、若い官僚のエーリヒだ。
「こちらが首都最大級の工場です」
高い煙突から黒い煙が立ち上る。
建物の中へ入ると、金属を叩く音が絶え間なく響いていた。
カンッ!カンッ!
蒸気が立ち込める工場内では、多くの人が汗を流して働いている。
私は一人一人の様子を見て回った。
若い男性。年配の職人。女性。
そして──。
「えっ……」
思わず足が止まる。
まだ十歳にも満たないような子どもが、小さな手で部品を運んでいた。
私は思わずエーリヒへ尋ねる。
「あの子達は?」
エーリヒは表情を曇らせる。
「児童労働です。家計を支えるために働いています」
私は胸が締め付けられた。
さらに工場長から話を聞く。
「勤務時間は?」
「十二時間ほどです」
「休日は?」
「月に二、三日でしょうか」
「給料は?」
工場長は少し言いにくそうに答えた。
「生活するのがやっとです」
私は静かに工場内を見回した。
シュタインベルク領とは全然違う……
領地でも仕事は大変だった。
それでも帰還兵には賃金を払い、技術を教え、将来につながる仕事を作ってきた。
ここでは、人は働くための道具のように扱われている。
私は小さくため息をついた。
「これでは、国は豊かにならないわね」
工場を出る途中。
建物の前で、一台の乗り物が目に入った。
「……あっ」
四つの車輪。箱型の車体。
エンジン音を響かせながら走っていく。
私は思わず見入ってしまう。
「車……」
やっぱりあった。エーリヒが笑う。
「ご覧になるのは初めてですか?」
私は慌てて取り繕う。
「ええ。実物は初めて見たわ」
車はゆっくり工場の門を出ていった。
私はその姿を目で追う。
やっぱり、この世界にも自動車はある。
航空機も戦車もあったんだから、不思議じゃないけど。
頭の中では、前世の知識が次々と浮かぶ。
大量生産できれば……輸出もできるかもしれない。外貨も稼げる。
そこまで考えて、私は苦笑した。
「いやいや。その前ね」
ラインが首を傾げる。
「何かおっしゃいましたか?」
私は工場を振り返る。
「労働環境を改善しないと働く人が幸せじゃない工業化なんて、長続きしないもの」
ヘルムも静かに頷く。
「その考えは間違っちゃいねぇ。安い賃金で酷使すれば、一時的には儲かる。だが、人は育たん」
私はもう一度工場を見つめた。
「まずは人。技術も工場もその後よ」
エーリヒは驚いたように私を見る。
「普通の政治家なら、生産量や利益を先に考えます」
私は微笑んだ。
「利益は大事よ。でも、人が壊れたら利益も続かない」
工場を後にしながら、私はノートを開く。
新しい項目を書き加えた。
『労働環境の改善』
『児童労働の見直し』
『技術者育成』
国を豊かにする方法は、一つではない。
工場を増やすことよりもまずは、そこで働く人々の未来を守ること。
それが、本当の復興への第一歩なのだと、私は改めて心に刻んだ。




