ラジオという未来
街頭演説を終えた翌日。
私はふと思い出した。
「そういえば……ラジオって、どんなものなのかしら」
その一言に、ヘルムがニヤリと笑う。
「見てみるか?」
私は思わず身を乗り出した。
「見られるの?」
「もちろんだ!ただし、秘密基地でな」
私達は牧場の地下格納庫へ向かった。
奥へ進むと、武器庫とは別の部屋へ案内される。机の上には、大きな木箱のような機械が置かれていた。
真空管。配線。大きなダイヤル。
私は興味津々で眺める。
「これが……ラジオ?」
ヘルムは首を振る。
「正確には軍用無線機だ。送ることも受けることもできる」
ラインが機械へ電源を入れる。
しばらくすると、
ザーッ……ザーッ……
雑音だけが部屋へ響いた。
ヴィルが周波数を合わせる。
突然。
『……こちら西部司令部……』
『……応答せよ……』
途切れ途切れの音声が聞こえてきた。
私は思わず目を見開く。
「本当に箱から声がする……」
ヘルムは笑う。
「初めて見た奴は皆そう言う」
私は機械を見つめながら考え込む。
これがもっと小さくなってもっと安くなれば……各家庭でニュースが聞ける。
政治も災害も天気も私は静かに呟いた。
「これ……いつか一般家庭にも普及するわ」
部屋が静まり返る。
ラインが驚いた表情を見せる。
「一般家庭ですか?」
ヴィルも苦笑する。
「それは難しいでしょう」
私は首を傾げる。
「どうして?」
ヘルムが椅子へ腰掛ける。
「まず放送局がねぇ」
「……え?」
「暴動で襲われた。設備は壊され、職員も逃げた。再建の予定すら立ってねぇ」
私は思わずため息をつく。
「そうだったの……」
ヘルムはさらに指を折る。
「それだけじゃない。この無線機一台がいくらすると思う?」
私は考えてみる。
「金貨十枚くらい?」
ヘルムは笑った。
「もっとだ。一般人なら給料の数か月分」
私は目を丸くする。
「そんなに?」
ラインも頷く。
「軍だから配備できるんです。個人で買える代物ではありません」
ヘルムは最後に苦笑した。
「それに今はハイパーインフレ真っ最中だ。昨日より今日。今日より明日の方が高い。誰もラジオどころじゃねぇ」
私は機械を見つめたまま、小さく笑う。
「うーむ……今じゃないわね」
今は食べ物が優先。仕事が優先。
国を立て直すことが先だ。
ラジオは、そのずっと先の話。
それでも私は、この機械から目を離せなかった。
新聞が今の時代ならラジオは次の時代。そして、もっと先には……
そこまで考えて、私は首を横に振る。
「欲張りすぎね」
ヘルムが笑う。
「何を考えてるか知らねぇが。お前の頭は十年先を見過ぎだ」
私は苦笑しながら答えた。
「職業病みたいなものです」
ヘルムは豪快に笑う。
「なら、その十年先を楽しみにしてるさ」
私はもう一度ラジオへ目を向ける。
今はまだ、一部の軍人だけの道具。
けれど、いつの日か。誰もが家でニュースを聞き、世界の出来事を知る時代が来る。
そんな未来を、私は静かに思い描いていた。




