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平和を望んだ少女は、戦争へ進む。 〜敗戦国の再建を目指した少女の誤算〜  作者:


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最初の資料

三日後。


ようやく上半身を起こしたまま過ごせるようになった。

歩くことはまだ許されていない。

だが本を読む程度なら問題ないらしい。

私の頼みを聞いた侍女が、数冊の本と大きな地図を部屋まで運んできてくれた。

ベッドの脇に積まれた本を見て、私は小さく息を吐く。


本来なら書庫そのものへ行きたい。

だが今は仕方がない。

動けない以上、持ってきてもらうしかない。


「ありがとうございます」


「何かありましたらお呼びください」


侍女はそう言って部屋を後にした。

扉が閉まり、静寂が戻った。

私は目の前の本へ視線を向ける。


まずは情報収集だ。


そこは、外交官時代から変わらない。

状況が分からない時は事実を集める。


推測はその後だ。


私は本を並べた。

シュタインベルク伯爵家の歴史書。

この国の歴史書。そして地図。


まずはこの家の歴史を知らなければならない。


家族との会話。使用人との会話。


何も知らなければ話が噛み合わなくなる可能性が高い。


次に国の歴史。これも同じだ。

大雑把でも把握しておかなければならない。


そして地図。

これがあれば、この世界の大まかな位置関係が分かるはずだった。


私は最初の一冊を手に取った。


『シュタインベルク伯爵家史』


表紙にはそう記されていた。

まずはここからだ。


私はゆっくりとページをめくる。


創設者。歴代当主。領地の変遷。婚姻関係。

家臣団。年代順に整理されている。


非常に読みやすい。


「なるほど……」


思わず呟く。

やはり軍との関係が深い家らしい。

代々軍人を輩出している。

父だけが特別なのではない。

家そのものが軍と深く結び付いているのだ。


私は紙を一枚取り出した。


そして簡単な家系図を書き始める。

外交官時代の癖だった。

頭だけで覚えるより、整理した方が早い。


グラウベ。リーブ。ザンフト。そしてヴィーダーベレ。


ようやく家族の輪郭が見え始めていた。

次に手を伸ばしたのは国史だった。


予想以上に分厚い。私は思わず苦笑する。


「これは時間がかかりそうね」


さすがに一日で読める量ではない。

だが概要だけでも知る必要がある。


私は目次を開いた。


建国。王朝。戦争。外交。産業。政治改革。

予想以上に体系的だった。


まずは細部ではなく全体。


年表から把握することにする。

細かな事件は後回しでいい。


全体の流れを掴む。それが最優先だった。


最後に地図を広げた。

折り畳まれた紙がベッドの上いっぱいに広がる。


私は思わず見入った。知らない国名。

知らない国境線。知らない都市。


だが――


「似ている……?」


思わず呟いた。

完全に別物ではなかった。


海岸線は違う。国境も違う。大陸の形も違う。


それでも全体の印象は、前世で見慣れたヨーロッパによく似ていた。


中央に大国があり。


その周囲を中小国が囲む。

西には海。南には山脈。北には寒冷地帯。


まるでヨーロッパを誰かが少しだけ描き変えたような地図だった。


偶然だろうか。

それとも何か理由があるのだろうか。

答えは分からない。

だが完全に未知の地形ではないというだけで少し安心する。


地理は国家を作る。河川は交易路になる。

山脈は国境になる。港は富を生む。

そして争いの原因にもなる。


外交官として嫌というほど見てきた現実だった。


気が付けば窓の外は夕暮れだった。


本を閉じる。頭が少し痛いが収穫はあった。


シュタインベルク伯爵家。

この国。そして周辺諸国。


まだ断片的ではあるが、少しずつ輪郭が見え始めている。


私は小さく息を吐いた。


「焦る必要はない」


分からないことだらけだ。

だが、それは恐れる理由にはならない。

分からないなら調べればいい。

知らないなら学べばいい。


それが私の仕事だった。


私は再び積み上げられた本へ視線を向ける。

まだ始まったばかりだ。

この世界を知るための調査は。

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