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平和を望んだ少女は、戦争へ進む。 〜敗戦国の再建を目指した少女の誤算〜  作者:


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読める文字

私は本を閉じた。

思ったより収穫は大きかった。

もちろん、まだ分からないことだらけだ。

だが、大まかな輪郭は見えてきた。


シュタインベルク伯爵家。


この国の成り立ち。周辺諸国の位置関係。


地図と歴史書のおかげで、少なくとも自分がどこにいるのか全く分からない状態からは脱出できた。


「うん」


小さく頷く。


「ざっくりだけど、見えてきたわね」


もっとも理解できたからといって安心できる訳ではない。むしろ疑問は増えていた。


私は手元の本を見下ろす。

そして、あることに気付く。


「……そういえば」


今更だった。本当に今更だった。

私は文字を読めている。

普通に何の苦労もなく。

そして話すこともできている。

転生した直後は気付かなかった。

身体のことや怪我のことで頭がいっぱいだったからだ。


だが考えてみればおかしい。

ここは異世界のはずだ。

前世の日本語が通じる保証などどこにもない。

なのに私は読める。

理解できる。会話も成立している。


「どういう理屈なのかしら……」


私は首を傾げた。

答えは出ない。そこで試してみることにした。

紙を取り出す。

そして前世で使っていた文字を書いた。


日本語だ。漢字。ひらがな。カタカナ。


久しぶりに書く自分の文字だった。

しばらくして侍女が部屋へやって来る。

私は紙を差し出した。


「これ、読める?」


侍女は紙を受け取った。

数秒後、首を傾げる。


「……お嬢様?」


「何かしら?これは何の記号でしょうか?」


私は内心で固まった。


「記号?」


「はい。暗号でしょうか?」


どうやら読めないらしい。

私は紙を受け取る。改めて眺める。

間違いなく日本語だ。

だが侍女には意味不明な記号にしか見えない。


つまり――少なくとも、この世界で日本語は使われていない。


「ふむ……」


だが結論を急ぐべきではない。

侍女が知らないだけかもしれない。

学者なら知っている可能性もある。

書庫に辞書の類があるかもしれない。


今は保留だ。


情報不足で結論を出すのは悪い癖だ。

外交交渉でも何度も見てきた失敗だった。


「まあ、その辺は後で調べましょう」


紙を畳みながら呟く。

優先順位はもっと別のところにある。


私は再び歴史書へ目を向けた。


戦争。その単語が何度も出てくる。


だが違和感があった。

前世の歴史とは微妙に違う。

地理も違う。国家も違う。

それなのにどこか似ている。


「今の戦争は何なのかしら」


ふと考える。

第一次世界大戦のようなものなのか?

あるいは別の戦争なのか?

だがすぐに首を振った。


「第一次、という呼び方は変ね」


前世でもそうだった。


第一次世界大戦という呼称は、その後に第二次世界大戦が起きたから生まれた。


その時代の人間は、そんな呼び方はしていない。


つまり私の知識をそのまま当てはめるのは危険だ。


世界が似ているからといって、歴史まで同じとは限らない。


そしてもう一つ問題があった。

古い歴史だけでは足りない。

私が知りたいのは現在だ。

今、この国で何が起きているのか。


政治は?経済は?軍は?国民は?


何を考えているのか。前世なら簡単だった。

ネットを開けばいい。

ニュースサイトを見ればいい。

SNSを見れば世論も分かる。


だが――


「ネットなんてある訳ないわよね……」


思わず苦笑する。

暖炉のある世界だ。さすがに期待していない。

では新聞はどうだろう。

活版印刷があるなら新聞くらいは存在するはずだ。


私は顔を上げた。


ちょうど侍女が本を片付けている。


「ねえ」


「はい、お嬢様」


「この国に新聞はある?」


侍女は不思議そうな顔をした。

だがすぐに頷く。


「ございます」


私は思わず身を乗り出しかけた。

頭が痛み、慌てて元の姿勢へ戻る。

だが構わない。今の一言は大きかった。


新聞がある。


つまり現在の情報を手に入れる方法がある。


私は小さく笑った。


「それは助かるわ」


歴史を知るだけでは未来は見えない。

だが現在を知れば、少しずつ見えてくる。

この国がどこへ向かおうとしているのかが。

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