新聞社への招待
数日後。
事務所へ一人の青年が現れた。
「失礼します。ウス・ライです」
私は笑顔で迎える。
「いらっしゃいませ」
ウスは一枚の新聞を机へ置いた。
「今日はお願いがあって参りました」
「お願い?」
ウスは真剣な表情になる。
「シュタール労働者党の政策を、紙面で詳しく紹介したいのです」
私は少し驚いた。
「そこまで興味を持ってくださるんですか?」
「はい」
「議会でのお話を聞いて確信しました。他の政党は理想を語ります。ですが、あなたは実績を語った。読者も、その違いに興味を持っています」
ヘルムは腕を組みながら笑う。
「やっぱり来たか」
「記事にする価値があると思ったんだろ?」
ウスは頷いた。
「ぜひ一度、新聞社へ来ていただけませんか?」
翌日。
私はライン、ヴィルと共に新聞社を訪れた。
建物へ入った瞬間。
「刷り上がったぞ!」
「次の記事だ!」
「急げ!」
印刷機が唸りを上げる。
記者達が原稿を抱えて走り回る。
活版印刷の音が建物中へ響いていた。
私は思わず立ち止まる。
「すごい……」
ウスが笑う。
「毎日こんな感じです。朝刊に間に合わせるため、皆必死なんですよ」
私は巨大な印刷機を見つめる。
紙が次々と流れ出てくる。
ほんの数時間前まで白紙だった紙が、あっという間に何千部もの新聞になって積み上がっていく。
私は思わず呟いた。
「新聞って……こんな風に作られていたのね」
ウスは印刷されたばかりの新聞を一部手渡してくれた。
「この一枚が、明日には首都中へ配られます。商人も役人も工場の労働者も皆、この新聞を読みます」
私は新聞を手に取りながら考えた。
この時代は、やっぱり新聞ね。
ネットがあれば、一瞬で全国へ情報を届けられるのに……
私は苦笑する。
まあ、仕方ないか。
この世界にはインターネットも、携帯電話もない。
だからこそ。
新聞一枚の価値が、とてつもなく大きい。
ウスは編集室へ案内してくれた。
壁一面には共和国全土の地図。
その横には各地から届いた記事。
事件。事故。政治。経済。地方の出来事。
あらゆる情報が集まっている。
私は驚きを隠せなかった。
「まるで共和国中の情報が集まっているみたい」
ウスは少し誇らしげに笑う。
「新聞社は情報を売る仕事ですから、早く正確に分かりやすくそれが私達の使命です」
私は静かに頷いた。
「情報も、一つの力なのね」
ヘルムも腕を組みながら笑う。
「ようやく気付いたか?銃は人を一人倒せる。新聞は、人の考えを変えられる」
その言葉が胸へ深く残る。
私は印刷機を見つめながら思った。
一枚の新聞が。一つの記事が。
国を動かすこともある。
人々へ希望を届けることもできる。
逆に、不安や憎しみを広げることもできる。
だからこそ、使い方を間違えてはいけない。
私はウスへ向き直る。
「お願いします。私達の政策を、正しく伝えてください」
ウスは真剣な表情で頷いた。
「もちろんです。事実を、そのまま記事にします」
私は新聞社を後にしながら、もう一度振り返る。
印刷機は休むことなく動き続けていた。
その音はまるで、この共和国の未来を刷り続けているように聞こえた。




