最初の敵と党新聞
翌朝。
私は事務所へ向かう途中、新聞売りの大きな声を聞いた。
「号外だ!」
「新党結成!」
「十五歳の少女が共和国へ挑む!」
首都のあちこちで人だかりができている。
私は一部新聞を買って目を通した。
一面ではない。
だが、政治欄の大きな記事だった。
『十五歳の少女、新党結成』
『シュタール労働者党 誕生』
『シュタインベルク領復興の立役者、政治の世界へ』
さらに記事は続いていた。
議会での演説。休憩時間でのやり取り。
そして、
「ここは夜会ではありません」
あの一言までしっかり載っている。
私は思わず頭を抱えた。
「そこまで載せるの……」
ヘルムは新聞を覗き込みながら大笑いした。
「はっはっは!ウスの奴、いい仕事しやがる!」
記事の後半には、シュタインベルク領の特集まで組まれていた。
『戦後、混乱する共和国で一つだけ立ち直った領地』
橋の修復。帰還兵の雇用。難民の受け入れ。
工房建設。学校改革。武器を農具へ転用。
領民証の導入。
そして、
『シュタインベルク領、奇跡の復活』
という見出しが躍っていた。
ラインが驚く。
「ここまで調べたんですね」
ヘルムはニヤリと笑う。
「新聞屋ってのは、鼻が利くんだよ」
一方その頃。
議事堂の一室では、既存政党の議員達も同じ新聞を読んでいた。
「十五歳?」
一人が鼻で笑う。
「子供の遊びだな」
別の議員も肩をすくめる。
「三日も持たんだろう」
「話題作りも大概にしてほしいものだ」
部屋には失笑が広がる。
しかし、一人だけ新聞をじっと見つめる老人がいた。
「……いや」
周囲が老人を見る。
「笑っていい相手ではない。この領地の復興記事を読んだか?」
誰も答えない。老人は新聞を机へ置いた。
「実績だけなら、ここにいる政治家の誰よりも多い」
部屋が静まり返る。
「若いからと侮れば……痛い目を見るぞ」
その頃。
私達の事務所では朝から人が集まり始めていた。
「昨日の記事を見ました!」
「入党できますか?」
「演説を聞きたいです!」
昨日まで静かだった事務所が、一気に賑やかになる。私は驚きを隠せなかった。
「えっ?こんなに?」
ラインも目を丸くする。
「新聞一つで、ここまで変わるなんて……」
ヘルムは腕を組みながら笑った。
「政治は情報戦でもある。良い記事も悪い記事も世の中を動かす力がある」
私は事務所の外を見る。
昨日までは誰も知らなかった小さな政党。
それが、たった一日で首都中の話題になっていた。
しかし同時に。
「子供の遊び」
そう笑う者達も現れ始めた。
私は静かに新聞を閉じる。
「……望むところよ。遊びかどうかは、これから証明すればいい」
こうして、シュタール労働者党は初めて味方と同時に、最初の敵を得ることになった。




