最初の仲間
数日後。
首都郊外の一角に、小さな事務所を借りた。
立派な建物ではない。
机が四つ。椅子が数脚。古びた本棚。
それだけだった。私は部屋を見渡して笑う。
「これで、いよいよね」
ラインは窓を開け、ヴィルは机を運ぶ。
ヘルムは腕を組みながら満足そうに頷いた。
「党ってのは豪華な建物から始まるもんじゃねぇ。人から始まるんだ」
私は苦笑する。
「まずは人集めね」
まだ党員は四人だけ。
活動らしい活動も始まっていない。
そんな時だった。
コンコン。扉が叩かれる。
「どうぞ」
一人の青年が入ってきた。
年齢は二十代半ばほど。
眼鏡を掛け、役人らしい質素な服装をしている。少し緊張した様子で頭を下げた。
「突然失礼します。共和国財務省で官僚をしております、エーリヒと申します」
私は首を傾げる。
「財務省の官僚さんが、私達に何か御用ですか?」
青年は深呼吸すると、真っ直ぐ私を見た。
「私も、この党へ参加させてください」
部屋が静まり返る。私は思わず聞き返した。
「まだ何も活動していないけど?」
青年は静かに頷いた。
「承知しています。ですが、議会でお見かけしました」
私は昨日の議会を思い出す。
「私?」
「はい」
青年は少し笑った。
「あれだけ年齢がお若いのに、あの婦人方へ、はっきりと意見を述べられていました」
私は苦笑する。
「少し言い過ぎたかしら」
青年は首を横に振った。
「いいえ。あそこは学芸会でも夜会でもありません。国の未来を話し合う場所です。それを口にできた方は、ほとんどいませんでした」
私は青年を見つめた。目に迷いはない。
本気なのだ。私はゆっくり頷いた。
「歓迎します」
青年の表情が明るくなる。
「ありがとうございます!」
ヘルムは小さく笑った。
「ほらな。人は理念より、人についてくることもある」
その日の午後。
また扉が叩かれた。
コンコン。
「失礼します」
入ってきたのは帽子を被った青年だった。
手には手帳。首からは小型のカメラ。
私は首を傾げる。
「どちら様ですか?」
青年は帽子を取り、丁寧に一礼する。
「新聞社の記者です。ウス・ライと申します」
その名前を聞いた瞬間。
ヘルムが顔をしかめた。
「あぁ?またお前か」
ウスは苦笑する。
「ご無沙汰しております」
ヘルムは腕を組む。
「軍港の件なら話すことはねぇぞ。何回聞かれても同じだ。知らんもんは知らん」
ウスは慌てて両手を振った。
「違います、違います!今日はヘルムさんじゃありません!」
ヘルムは眉をひそめる。
「……違う?」
ウスは私の方へ向き直る。
「ヴィーダーベレ・フォン・シュタインベルクさん。ぜひ、お話を聞かせていただけませんか?」
私は少し驚いた。
「私ですか?」
「はい」
ウスは真剣な表情になる。
「議会での演説。そして昨日の休憩時間でのやり取り、あれを見て、ぜひ取材したいと思いました」
ヘルムはニヤリと笑う。
「ほらな。もう新聞が嗅ぎつけた」
私は思わずため息をつく。
「まだ政党を作ったばかりなんだけど……」
ウスは笑顔で答えた。
「だからこそです。新しい風は、早いうちから追い掛けるのが記者の仕事ですから」
私はラインとヴィルを見る。
二人とも静かに頷いた。
どうやら断る理由はなさそうだ。
私は椅子を勧める。
「では、お茶でも飲みながらお話ししましょう」
共和国で生まれた小さな政党。
その存在は、少しずつ首都の人々の目にも留まり始めていた。




