結党
共和国中央役所。
私は恐る恐る政党設立届へ署名した。
役人は書類を受け取ると、一通り目を通し、机の上へ判を押す。
コン。
「以上で受理いたしました」
私は思わず聞き返す。
「えっ?……これだけですか?」
役人は事務的に頷いた。
「これで本日より、正式な政党となります」
あまりにも簡単だった。
私は拍子抜けしてしまう。
役所を出ると、ヘルムが笑う。
「政党を作るのは簡単だ。難しいのは、その後だ」
ラインが頷く。
「党員を集め。支持を得て、政策を実現する」
ヴィルも続ける。
「維持する方が何倍も大変です」
私は大きく息を吐いた。
「まずは党名ね」
「党是も」
「理念も決めないと」
ヘルムはニヤリと笑う。
「その前に見せたい物がある。軍資金は任せろ」
そう言うと馬車へ乗り込んだ。
首都郊外。
馬車が止まった場所には、大きな牧場が広がっていた。
牛が草を食み、何十人もの人々が働いている。
のどかな風景だった。
「ここが?」
私は首を傾げる。
すると作業をしていた女性がこちらへ駆け寄ってきた。
「おねさーん!どうしたんですか?」
ヘルムは手を挙げる。
「おう!同期の娘っ子を連れてきた」
女性は私を見る。
「あー!例のお嬢ちゃん!」
私は苦笑する。
「もう広まってる……」
ヘルムは笑いながら言った。
「ちょっと場所借りるぞ」
「どうぞー!」
女性は元気よく手を振った。
牧場の奥。
緩やかな山の斜面に、小さな倉庫が建っていた。
外から見れば、どこにでもある農具小屋だ。
ヘルムは鍵を開ける。
「ここだ。入れ」
私は中へ入る。
「えっ……?」
入口とは全く釣り合わない広さだった。
奥へ奥へと通路が続いている。
天井も高い。まるで巨大な地下格納庫だった。
私は呆然と立ち尽くす。
「な、何これ……」
ヘルムは腕を組んで笑った。
「ここは昔、海軍の極秘施設だった場所だ。飛行船を隠していた格納庫だよ」
ラインもヴィルも驚きを隠せない。
「飛行船の……格納庫?」
ヘルムは頷く。
「軍でも片手で数えられるくらいしか存在を知らなかった。戦争の混乱に紛れて俺が買い取った。表向きは牧場。働いている連中も、みんな俺の元部下だ。秘密を守るには、これ以上ない場所だからな」
私は周囲を見回す。とんでもない人だ……
その時だった。ラインが奥を見て固まる。
「なっ……!まさか……」
声を上げながら駆け出した。
「A7V戦車!?」
私は思わず目を見開く。
暗闇の中には、大きな戦車が何両も並んでいた。埃は被っている。
しかし、丁寧に保存されていることが分かる。
ヘルムは平然と答えた。
「ああ。陸軍の秘密兵器だな。そりゃあ、グラウベの奴が隠したからだ」
ラインはまだ信じられないという表情だった。
「何故、海軍の施設に……」
ヘルムは肩をすくめる。
「だから秘密なんだよ。戦車だけじゃない」
さらに奥を指差す。
木箱が山のように積まれていた。
「小銃、機関銃、砲弾、弾薬食料。ざっと、一個旅団が一か月は戦える量だな」
ラインもヴィルも言葉を失っていた。
私は小さく呟く。
「まさか……これ全部……」
ヘルムはニヤリと笑う。
「まだあるぞ」
棚の奥から、小さな木箱を運んできた。
蓋を開ける。
中には金貨がぎっしり詰まっていた。
「軍資金はこれを使う」
私は思わず一枚手に取る。
「金貨……これも、どこから?」
ヘルムは人差し指を口元へ当てた。
「軍事機密でーす!」
私は思わず苦笑する。
「絶対、教える気ありませんね」
ヘルムは豪快に笑った。
「知らない方が長生きできることもある」
私は格納庫を見渡す。
秘密基地。戦車。大量の物資。そして金貨。
共和国へ来てから一番の衝撃だった。
ヘルムは笑みを消し、真剣な表情で私を見る。
「ベレ!理想だけじゃ国は変わらねぇ!金も人も情報も全部揃って、初めて政治ができる」
私は静かに頷いた。
共和国での戦いは、まだ始まったばかりだった。




