机の外にある政治
翌朝。
私達は再び共和国議事堂を訪れていた。
二日目。今日から本格的な討論が始まる。
……そう思っていたが、しかし。
「それは貴殿の責任だ!」
「いや! 貴様の派閥が!」
「責任転嫁するな!」
机を叩く音が議場へ響く。
バン!バン!
怒鳴り声。野次。派閥同士の言い争い。
私は静かにその様子を眺めていた。
「ここが……」
小さく呟く。
「国を動かす場所……?」
昨日より酷い。議論ではない。
感情のぶつけ合いだった。私は会場を見渡す。
昨日、宝石を身に着けていた婦人達の姿は無い。
「来ていない?」
名簿を見ると、出席は任意らしい。
発表だけ終えて帰った人も少なくないようだ。
私は小さくため息をつく。
「これは思ったより不味いわね」
ラインが小声で尋ねる。
「何がでしょう?」
私は議場を見つめたまま答えた。
「代表者を選ぶ基準よ。ここにいる人達は、本当に国民の代表なのかしら?議論もしない。相手の話も聞かない。これでは、ただの発表会じゃない。これが共和国の代表者……?」
誰も答えなかった。
その時だった。
ヘルムが立ち上がる。
「ベレ」
私は振り向く。
「外へ出るか?ここに居ても時間の無駄だ。それより面白い所へ連れて行ってやる」
私はもう一度議場を見渡す。
怒鳴り声はまだ続いている。
「……そうね」
「無駄な会議ほど無駄なものはないわ」
私は席を立った。
ラインとヴィルも後に続く。
馬車へ乗り、しばらく走る。
到着したのは共和国中央役所だった。
私は建物を見上げる。
「役所?」
ヘルムは笑う。
「そうだ!政治家より官僚を見ろって言っただろ!本当に国を動かしてる場所を見せてやる」
中へ入る。
役人達は大量の書類を抱え、忙しく廊下を歩いている。
議事堂とは全く違う空気だった。
誰も怒鳴らない。誰も演説しない。
ただ黙々と仕事をしている。
私は思わず呟いた。
「こっちの方が……国を動かしてる感じがする」
ヘルムは満足そうに頷く。
「その通りだ」
そして受付へ向かった。
「用紙を一枚くれ」
受付の役人は慣れた手つきで一枚の書類を差し出す。
ヘルムはその書類を机へ広げた。
「ほら!サインして提出するぞ」
私は首を傾げる。
「……何にですか?」
ラインもヴィルも同じように書類を覗き込む。
ヘルムは当たり前のように答えた。
「政党設立届だ」
「……はい?」
私は固まる。
ヘルムは書類を指差した。
「共和国法では党員四名で政党を作れる」
「代表一名に、党員三名。条件はそれだけだ」
私は書類とヘルムの顔を何度も見比べた。
「ちょっと待ってください!そんな話、一言も聞いてません!」
ヘルムは笑いながらペンを差し出す。
「だから今、教えてる!責任者はもちろん、お前だ」
私は思わず声を上げた。
「えぇぇぇぇっ!?」
ラインは苦笑しながら頷く。
「私は賛成です」
ヴィルも静かに口を開く。
「グラウベ様も、恐らくこれを見越してヘルム様へ手紙を託したのでしょう」
私は頭を抱えた。
議会を抜け出したと思ったら、まさか役所で政党を作ることになるなんて。
ヘルムはニヤリと笑う。
「議場で文句を言うだけなら誰でもできる。国を変えたいなら、まずは土俵に立て」
私はペンを見つめる。
これを書けば、私は共和国の政治へ正式に足を踏み入れることになる。
父が託した未来。
その第一歩は、思っていたよりもずっと突然やってきた。




