現実を語る者
共和国議事堂。
重厚な扉が開くと、大きな会議場が目の前に広がった。
高い天井。赤い絨毯。
壁には共和国の旗が掲げられている。
私は思わず周囲を見回した。
「これが議会か……」
しかし、すぐに違和感を覚えた。
煌びやかな宝石を身に着けた婦人。
豪華なドレス。
香水の匂いまで漂ってくる。
私は心の中で首を傾げた。
夜会かしら?
一方で、質素な服装の女性達もいる。
飾り気はない。
資料を抱え、真剣な表情で席へ向かっている。
あっちの方が普通よね?
改めて会場を見渡す。
ここへ来ている人達……一部は、何か勘違いしている人も多いみたいね。
やがて壇上へ代表者らしき人物が立った。
「共和国は新たな時代を迎え――」
「国民の幸福を第一に――」
「復興へ向け一致団結し――」
私は黙って聞いていた。
立派な言葉ばかりだった。
けれど、具体的な話は一つもない。
当たり障りのない話ばかりね……
拍手だけが響く。
そして司会者が名前を呼んだ。
「次は、シュタインベルク伯爵領代表、ヴィーダーベレ殿」
はぁ……私の番ね。
私はゆっくり立ち上がる。
緊張は不思議となかった。
事実を話すだけだからだ。
壇上へ立ち、会場を見渡す。
私はゆっくり口を開いた。
「私達が最初に行ったのは、食料の備蓄です」
会場は静かだった。
「次に、帰還兵へ仕事を作りました」
「橋を修理し、道路を直し、武器を農具へ作り替えました」
誰も口を挟まない。私は続ける。
「職人へ安定した価格で鉄や木材を供給しました。学校では技術教育を始めました。難民は保護するだけではなく、仕事へ就いていただきました」
理想論は話さない。希望も語らない。
数字と事実だけを積み重ねていく。
「以上です」
頭を下げ、自分の席へ戻る。
会場は静まり返っていた。
皆、ぽかんとしている。
あれ?難しい話なんて何もしてないけど、ただ事実を話しただけなのに。
その静寂を破ったのは、ヘルムだった。
「中々良かったぞ」
周囲へ聞こえるくらいの声で笑う。
「流石、あいつの娘だ」
私は思わず苦笑した。
その後も各地の代表者が次々と演説する。
理想。理念。精神論。未来像。話は続く。
気付けば数時間が過ぎていた。
どうやら発表は終わったらしい。
私は資料を閉じる。
さて……ここからどう会議を進めるのかしら。
その時、司会者が告げた。
「ここまでで。明日からの再開とします」
まあ、そうよね。私は小さく伸びをした。
すると背後から女性の声が聞こえてきた。
「あらあらこんな子供が代表ですの?」
別の女性も笑う。
「それに、お顔の傷……お気の毒ですこと」
私はゆっくり振り返る。
宝石を幾重にも身に着けた婦人が数人、こちらを見ていた。
その瞬間、ライン、ヴィル、そしてヘルム。
三人の視線が一斉に婦人達へ向く。
空気が張り詰める。
私は慌てて小さく手を上げた。
「まあまあ」
三人は何とか踏み止まった。
私は婦人達へ穏やかに微笑む。
「そうですか?では、一つだけ」
私は相手の姿を静かに見つめる。
「この不況で、多くの方が一日一回の食事にも困っています。その一方で、その煌びやかな宝石、その豪華なドレス。そして、その恵まれた体格。随分と豊かな暮らしをなさっているのですね」
私は微笑みを崩さず続けた。
「随分と場違いですね。ここを夜会と勘違いなさっているのでは?」
婦人の表情が一瞬で固まる。
「なっ……!」
周囲から、クスクスと笑い声が漏れた。
「あれは一本取られたな」
「確かに夜会じゃない」
「子供の方が現実を見ている」
そんな囁きが広がる。
婦人は顔を真っ赤にし、何も言い返せない。
私は軽く一礼すると、その場を離れた。
ヘルムが肩を震わせながら笑う。
「遠慮がねぇな」
私は肩をすくめる。
「事実を申し上げただけです」
議事堂には、小さな笑いとざわめきが広がっていた。




