招集状
翌朝。
ヘルムの家で朝食を終えた頃、一人の配達員が封筒を届けに来た。
共和国政府の紋章が押された正式な公文書だった。ヴィルが受け取り、封を切る。
「共和国復興諮問会議への出席を命ずる」
ラインが書類を覗き込む。
「登庁日は三日後ですね」
ヴィルも静かに頷く。
「いよいよですね」
二人の表情には緊張が浮かんでいた。
一方、ヘルムだけは新聞を読みながら笑っている。
「そんな顔をするな」
ラインが苦笑する。
「ですが、共和国政府ですよ?」
「緊張します」
ヘルムはコーヒーを一口飲み、肩をすくめた。
「気楽に行け。胃が痛くなるのは向こうだ」
部屋が静まり返る。
私は思わず吹き出した。
「ふふっ」
ヘルムは真面目な顔で続ける。
「グラウベが寄越した娘だ。向こうは、お前がどんな奴か分からない。だから警戒もするし、期待もする。胃が痛くなるのは、質問されるお前じゃない。答えを聞く向こうだ」
ラインとヴィルも思わず笑ってしまう。
部屋の緊張が少し和らいだ。
午後。
ヘルムは共和国政府から届いた資料を机へ並べた。
「これが諮問会議の参加者だ」
私は名簿へ目を通す。思わず首を傾げた。
「……うん?」
ヘルムが笑う。
「気付いたか」
私は名簿を見ながら呟く。
「女性が……半数近く?」
予想外だった。
もっと年配の男性ばかりだと思っていた。
ヘルムは椅子へ座り直す。
「戦争だ。優秀な男は戦場へ送られた。戻ってこなかった者も多い」
私は静かに名簿を見つめる。
「それに……」
ヘルムが続ける。
「戻ってきても、旧帝国軍の高官は戦犯扱いだ。政治から外された者も多い」
ラインも頷く。
「実力があっても参加できない方が少なくありません」
私は父のことを思い出した。
もし戦争がなければ、もし共和国が誕生していなければ父も、この場にいたのかもしれない。
私は静かに呟く。
「そういうことだったのね」
名簿をめくる。
学者。経済学者。技術者。地方行政官。商人。
そして女性の名前も多い。
私は少し考え込んだ。
「これは……会議になるのかしら?」
ヘルムは苦笑する。
「最初は会議だ。だが途中から討論になり。最後は怒鳴り合いになる」
私は思わず笑ってしまった。
「そんなにですか?」
「ああ」
ヘルムは肩をすくめる。
「共和国だからな。皆、自分が正しいと思っている。だから意見がぶつかる」
私はノートを閉じる。
「でも、それは悪いことではありませんね」
三人が私を見る。
「誰も意見を言えない国よりは、ずっと健全です。大切なのは、最後にまとめられる人がいること」
ヘルムは満足そうに笑った。
「なるほど。やっぱりグラウベの娘だ」
私は照れ笑いを浮かべた。
三日後。
いよいよ共和国政府の中枢へ足を踏み入れる。
どんな人達が待っているのか。
どんな議論が交わされるのか。
期待と少しの不安を胸に、私はゆっくりと窓の外の共和国議事堂を見つめていた。




