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平和を望んだ少女は、戦争へ進む。 〜敗戦国の再建を目指した少女の誤算〜  作者:


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首都への旅立ち

出発の日。

朝早くから屋敷は慌ただしかった。


馬車の点検。荷物の積み込み。護衛の確認。


私は旅装へ着替え、玄関へ向かう。

母と妹、それに父が待っていた。

母は私の襟元を整えながら微笑む。


「身体には気を付けるのですよ」


「はい、お母様」


私は静かに頷いた。

すると妹のザンフトが駆け寄ってくる。


「お姉様」


少し不安そうな表情だった。


「すぐ戻って来れますよね?」


私はしゃがみ込み、妹と目線を合わせる。


「もちろんよ」


優しく頭を撫でる。


「手紙を書くわ。だから心配しないで」


妹は少し安心したように笑った。


「はい!」


私は続ける。


「その代わり私がいない間、皆を支えてね」


妹は小さな胸を張る。


「任せてください!」


その返事に家族全員が笑顔になった。

父がゆっくり歩いてくる。


「準備はいいか」


「はい」


私は頷いた。

父は何も言わず肩へ手を置いた。


「行ってこい」


短い言葉だった。

だが、その一言に全てが込められていた。

私は深く頭を下げる。


「行ってまいります」


馬車がゆっくり動き出す。

窓から屋敷を見る。母が手を振る。

妹も大きく手を振っている。

父は腕を組んだまま、小さく頷いていた。

私は笑顔で手を振り返した。


領地を抜ける道。

最初に見えたのは難民村だった。


粗末だった小屋は少しずつ立派になり、煙突から煙が上がっている。


子供達が元気よく走り回り、大人達は今日も仕事へ向かっていた。


さらに進むと学校が見えてきた。

窓からは子供達の元気な声が聞こえる。


工房では水車が回り続け、鍛冶屋からは鉄を打つ音が響く。


橋の上では荷車が列を作り、市場には商人達の威勢の良い声が響いていた。


私はその景色を静かに眺める。

ここへ来た頃は、何もなかった。


橋は壊れ。人々は仕事を失い。

戦争の傷だけが残っていた。


それでも少しずつ積み重ねてきた。

皆と一緒に私は胸の中で静かに誓う。


「必ず戻るわ」


この領地は私の帰る場所だ。

だから安心して首都へ行ける。


馬車の前ではラインとヴィルが馬を進めていた。二人は時折周囲へ鋭い視線を向ける。


その様子は旅人というより護衛そのものだった。

少し離れたところで、ラインが小声で話し掛ける。


「閣下、本気でしたね」


ヴィルも苦笑する。


「ああ。まさか本当にお嬢様を首都へ送り出すとは思わなかった」


ラインは懐から一枚の紙を取り出した。

そこにはグラウベからの指示が書かれている。


『第一、娘の警護』


『第二、娘の行動補佐』


『第三、共和国政府および周辺情勢の報告』


ラインは読み終えると苦笑した。


「護衛だけじゃないのね」


ヴィルも頷く。


「情報収集まで任されている」


ラインはさらに封筒を取り出す。

厚い封蝋が押された手紙だった。


「それと、もう一つ元帥閣下の遠い親戚に当たる方への手紙」


ヴィルは静かに頷く。


「首都へ着いたら最優先だな」


「内容は聞いていない」


「聞く必要もない」


二人は元軍人らしく、それ以上は詮索しなかった。

私はそんな二人の会話など知らず、窓の外を眺めていた。


少しずつ遠ざかるシュタインベルク領。


これから向かう首都では、何が待っているのだろう。


共和国政府。政治家達。崩れかけた経済。


そして、新しい時代。


期待と不安が入り混じる中、馬車はゆっくりと首都への街道を進み始めた。


こうして私は、生まれて初めて領地を離れ、新たな舞台へと歩み始めるのだった。

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