十五歳という壁
共和国政府から届いた公文書を読み返していた私は、一冊の法令集を手に取った。
新しく制定された共和国法。
政治制度も大きく変わっている。
「どれどれ……」
私は一枚ずつページをめくっていく。
地方自治。選挙。行政機構。
そして、一つの条文で手が止まった。
『共和国市民は、満十五歳より政治へ参加する資格を有する』
「十五歳……」
私は思わず椅子へもたれ掛かった。
今の私は十二歳。あと三年ある。
私は苦笑する。
「三年も待っていたら……」
窓の外を見る。
共和国は今も混乱の真っ最中だ。
紙幣の価値は下がり続け、難民も増えている。
「共和国が持たないかもしれない」
小さく呟く。
父は、一体どうするつもりなのだろう。
それから数日後。
領館の門前へ二頭立ての馬車が到着した。
執事が慌てて応接室へ入ってくる。
「旦那様!お客様がお見えです」
父は静かに立ち上がる。
「通してくれ」
私はいつものように隣の部屋へ移動した。鍵穴から隣の部屋を覗き込むと。
扉が開き。
最初に入ってきたのは一人の女性だった。
20代前半?背が高い。すらりとした立ち姿。
長い金色の髪。歩くだけで絵になる。
私は思わず心の中で突っ込む。
モデルかーい!
女性は父の前で立ち止まる。
続いて男性が入室した。
二十八歳くらいだろうか?
落ち着いた雰囲気。派手さはない。
だが、その立ち方一つで分かる。
戦場を何度も経験してきた人だ。
私は静かに観察する。
若いけど……歴戦って感じね?
二人とも私服だった。
しかし、次の瞬間。
二人は同時に背筋を伸ばえた。
そして力強く敬礼する。
「グラウベ元帥閣下!ヒトマル時、着任しました!」
父は思わず苦笑した。
「おいおい。私はもう一般人だ。敬礼は要らん」
女性は笑顔になる。
「身体が覚えておりますので」
男性も静かに頷いた。
「失礼いたしました」
私は隣の部屋で固まっていた。
…………
今、何て言った?元帥?
私は頭の中で言葉を繰り返す。
元帥。元帥。元帥。
はい?
思わず声が漏れそうになる。
今、何と?
私は父の背中を見つめた。
元帥閣下!?
軍の高官とは聞いていた。
参謀だとも思っていた。
でも元帥?
それって軍のトップクラスじゃない!
私は思わず頭を抱える。
いやいやいや!そんな重要人物だったの!?
父はそんな私の驚きなど知る由もなく、二人へ椅子を勧める。
「遠いところ、ご苦労だった」
女性――ライン・ハイトが笑顔で答えた。
「閣下のお呼びとあれば、どこへでも参ります」
男性――ヴィル・モデルも静かに頷く。
「ご命令を」
父は小さく笑った。
「命令ではない。今日は、一人の父親として頼みがある」
その言葉を聞いた私は、ますます混乱していた。
共和国からの召集。十五歳という法律の壁。
そして、突然現れた父の元部下と思われる二人。
物語は静かに、領地から共和国の中心へ向けて、大きく動き始めようとしていた。




