共和国からの召集
ある日の昼過ぎ。
領館へ一頭立ての馬車が到着した。
共和国政府の紋章が入った封筒を抱えた使者が、執事へ一通の公文書を手渡す。
「共和国政府より、公文書でございます」
執事はすぐに父の書斎へ向かった。
「旦那様。共和国政府からでございます」
父は封を切り、静かに文書へ目を通す。
その表情はほとんど変わらない。
だが最後まで読み終えると、小さく呟いた。
「……ついに来たか」
私はいつものように隣の部屋で、その様子を聞いていた。
どうやら今回も私が表へ出る番ではないらしい。
応接室では父と母、執事が話を始める。
「内容は?」
母が尋ねる。
父は公文書を机へ置いた。
「共和国政府が、我が領の復興政策について意見を聞きたいそうだ」
執事が目を見開く。
「正式な召集でございますか」
「ああ」
父は静かに頷く。
「視察団の報告が中央で評価されたのだろう。首都へ来て説明してほしい、とある」
部屋が静まり返る。
しばらく沈黙が続いたあと、母が静かに言う。
「あなたが行かれるのですか?」
父は苦笑した。
「私が行きたいところだが……」
少し間を置く。
「戦犯扱いだからな。政治に参加するどころか、恐らく首都へ入ること自体が危険だ。中央には、私を快く思わない者も少なくないだろう」
私は隣の部屋で小さく息を呑んだ。
父は戦争が終わってからも領地のために働き続けてきた。
それでも共和国から見れば、旧帝国軍の高官。
過去は簡単には消えない。
母も複雑そうな表情を浮かべる。
「では、どうされるのですか」
父は少し考え込んだ。
「ベレに行ってもらいたい気持ちはある」
その言葉に、思わず胸が高鳴る。
だが父はすぐに続けた。
「しかし、一人で行かせるわけにはいかん」
「まだ十二歳だ。政治以前に、道中だけでも危険が多過ぎる」
執事も静かに頷いた。
「護衛だけでは不十分かと」
父は椅子にもたれ、小さくため息をついた。
「ふぅ……」
しばらく考え込んだあと、不意に口元が緩む。
「そういえば……」
母が首を傾げる。
「何か思い当たる方でも?」
父は小さく笑った。
「あの二人だ。今、何をしているだろうな?」
私は隣の部屋で首を傾げる。
あの二人?
父はどこか懐かしそうな表情を浮かべた。
「手が空いているなら、助けてもらうか」
執事が尋ねる。
「お呼びになるのでしょうか」
父は力強く頷いた。
「ああ。電報を打とう。事情を書けば、きっと来てくれるはずだ」
執事はすぐに立ち上がった。
「承知いたしました」
父は窓の外を眺めながら、小さく呟く。
「これからの共和国を背負うのは、私達ではない。若い世代だ。その第一歩くらいは、私にも手伝わせてもらおう」
私は隣の部屋で、その言葉を静かに聞いていた。
「あの二人って……誰なんだろう」
共和国からの召集。
父が呼び寄せようとしている謎の二人。
その存在が、これから始まる首都への旅を大きく左右することを、この時の私はまだ知らなかった。




