表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
平和を望んだ少女は、戦争へ進む。 〜敗戦国の再建を目指した少女の誤算〜  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
69/208

初めての工場

春が近づき始めた頃。

領地の川沿いでは、一つの建物が完成しようとしていた。


鍛冶屋でもない。製粉所でもない。


新しく建てられた、大きな工房だった。

建物の横では、水車がゆっくりと回っている。

私はその様子を見ながら微笑んだ。


「いよいよね」


工房の中では、鍛冶屋の親方をはじめ、多くの職人が集まっていた。

父も興味深そうに見守っている。

私は水車へ繋がる木製の歯車を指差した。


「水を流してください」


川の水が勢いよく流れ始める。

ゆっくりと水車が回転する。


ギギギ……


木の歯車が噛み合い、大きな軸が動き始めた。

次の瞬間。


ドン!


巨大なハンマーが自動で振り下ろされた。


「おおっ!」


工房中から歓声が上がる。


ドン!ドン!ドン!


一定の間隔で鉄を叩き続ける。

親方は目を丸くした。


「止まらねぇ……」


今までなら三人掛かりで動かしていた大槌が、水の力だけで動いている。

私は続けて送風機を動かした。

ふいごが一定のリズムで空気を送り続ける。

炉の炎が一気に勢いを増した。


「火力も安定しています」


職人達は驚きながら炉を見つめる。


「こんなに楽になるのか……」


親方は真っ赤な鉄を取り出し、水力ハンマーの下へ置く。


ドン!ドン!ドン!


一定の力で鉄が鍛えられていく。

親方は思わず笑った。


「三人分の仕事が一人でできる!」


工房中から拍手が起こる。

弟子達も目を輝かせていた。


「すごい……こんなの初めて見た」


私は嬉しそうな職人達を見て、自然と笑みがこぼれる。


父も水車を見つめながら呟く。


「兵士が増えた訳でもない。職人が増えた訳でもない。それなのに仕事量が増えている」


私は頷いた。


「人を増やすだけが方法じゃありません。人を助ける道具を作ることも大切です」


父は感心したように笑った。


「なるほど。これが工業というものか」


その日の夕方。

私は一人で工房を見上げていた。

水車は静かに回り続けている。

その姿を見ながら、前世の記憶がよみがえった。


巨大な工場。何台もの工作機械。

電気で動くモーター。ベルトコンベア。


私は思わず苦笑する。


「そのうち……」


「発電機や工作機械も欲しいわね」


もちろん、今は夢物語だ。

発電機を買うのにも金がいる。

銅線も磁石も精密加工も必要になる。

工作機械を作るには、さらに精度の高い機械が必要だ。

今の技術では、まだ遠い未来の話だった。


それでも私は水車を見つめながら微笑む。


「でも、一歩ずつね。焦る必要はない」


橋を直した。学校を作った。工房を広げた。

そして今日、水の力で機械が動き始めた。

どれも小さな一歩だった。


しかし、その一歩が積み重なれば、いつか本当に発電機も工作機械も作れる日が来るかもしれない。

私はノートを開き、新しいページへ書き記す。


『人の力を、水の力へ。次は、水の力を機械の力へ。』


工房の外では、水車が変わらず回り続けていた。


その静かな回転は、シュタインベルク領が工業化への新たな時代へ踏み出したことを、誰よりも雄弁に物語っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ