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平和を望んだ少女は、戦争へ進む。 〜敗戦国の再建を目指した少女の誤算〜  作者:


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共和国の視察団

冬の冷たい風が吹く朝。

領館へ数台の馬車が到着した。

執事が応接室へ案内する。


「共和国政府視察団の皆様がお見えです」


今回は以前とは違う。役人が一人ではない。


経済官僚。内務官。軍の将校。

さらに記録官まで同行していた。


父は静かに出迎える。


「遠路、ご苦労様です」


代表の官僚が一礼した。


「本日は、シュタインベルク領の復興状況を視察させていただきます」


私は前回と同じように、隣の部屋へ入った。


「ベレ」


父が振り返る。


「今回も表へは出るな」


「はい、お父様」


私は扉へそっと耳を寄せる。


視察団は午前中、領地を見て回った。


橋。工房。学校。難民村。市場。


帰ってきた頃には、皆どこか信じられないという表情を浮かべていた。

応接室へ戻るなり、一人の官僚が口を開く。


「信じられません」


父は静かに微笑む。


「何がでしょう」


官僚は少し興奮気味だった。


「本当に同じ共和国なのですか」


部屋が静まり返る。


「首都では物価が毎日変わります。店から商品も消えています。難民も溢れています。ですが、この領地は違う」


「市場は動き、学校では子供達が学び。難民も仕事をしています」


軍の将校も頷いた。


「治安も良い。見回りの兵も落ち着いていた。武装解除後とは思えません」


父は静かに答える。


「皆で積み重ねてきた結果です」


経済官僚が帳簿を見ながら尋ねる。


「価格を一定にしていると聞きました。本当ですか?」


父は頷く。


「領内だけですが伯爵家の備蓄を活用しております」


官僚は驚きを隠せない。


「中央では毎日のように価格が変わります。なぜ維持できるのですか?」


父は落ち着いて答えた。


「利益より信用を優先したからです」


その言葉に、一瞬部屋が静かになった。

しばらくすると、視察団の中で意見が割れ始めた。


「全国で導入すべきだ」


一人の官僚が言う。すると別の者が首を振る。


「無理です。中央にはそこまでの備蓄がありません」


軍人も口を開く。


「物流も崩壊しかけています。地方ごとに事情が違い過ぎる」


今度は内務官が反論する。


「しかし、この領地では成功しているではないか」


「だからといって共和国全体へ広げられるとは限りません」


応接室では議論が続いていた。

私は隣の部屋で、そのやり取りを静かに聞いていた。


「なるほどね……」


思わず小さく呟く。


どうやら共和国政府が進めている政策と地方で実際に起きていることには大きな隔たりがあるらしい。


現場は混乱している。

しかし中央へ届く報告は理想ばかり。

逆に、中央の政策は現場では実行できない。

その溝が、さらに混乱を大きくしている。

私は小さくため息をついた。


「どうも……共和国政府がやっている事は、現実と乖離しているようね」


理想を語る者。現実に苦しむ者。

その距離は、思っていた以上に大きかった。


「互いに不信感を募らせているのか……」


私は窓の外を見る。

市場では今日も人々が働いている。


工房からは鉄を打つ音が聞こえ、学校からは子供達の笑い声が響いていた。


この領地では現実を見て、一つずつ問題を解決してきた。


だから今がある。

けれど共和国全体は違う。

現場は中央を信用できず。

中央も現場を信用できない。

その悪循環が続いている。

私はもう一度、小さく息を吐いた。


「はぁ……」


国を立て直すのは、制度を作ることではない。

現実を知り、その現実に合わせて動くこと。

その当たり前のことが、今の共和国には何よりも欠けているように思えた。

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