工房を広げよう
鍛冶屋を訪れるたびに、活気が増している。
それ自体は喜ばしいことだった。
だが、その日は少し様子が違った。
工房の中は人で溢れていた。
鍛冶職人。弟子。木工職人。修理を待つ荷車。
完成した農具。どこを見ても手狭だった。
私は思わず苦笑する。
「これは……狭いわね」
親方も苦笑いを浮かべた。
「ありがたい悲鳴ですよ。仕事はあるんですが、今度は、場所が足りません」
「荷車を修理している横で鍬を打ってますからね」
私は工房の中をゆっくり歩く。
確かに効率が悪い。木を切る音。
鉄を叩く音。馬車を修理する音。
全部が同じ建物へ詰め込まれている。
これでは仕事もしづらい。
私は外へ出て周囲を見回した。
工房の隣には使われていない空き地がある。
雑草が生え放題だった。
「ここは誰の土地ですか?」
執事が答える。
「伯爵家の所有地でございます」
私は少し考える。
「なら工房を二倍にしましょう」
親方も執事も驚いた顔をした。
「二倍ですか!?」
私は頷く。
「ええ。今の工房はもう限界です。無理に詰め込んでも仕事は増えません」
私は地面へ棒で簡単な図を書き始めた。
「鍛冶屋はここ」
一本の四角を書く。
「木工はこちら」
少し離れた場所へもう一つ。
「馬車修理は入口近く」
荷車が入りやすい位置へ印を付ける。
「全部を一か所へ集めます」
親方は図面を見つめる。
「近ければ運ぶ手間も減りますな」
私は笑顔で頷く。
「その通りです。木工が木を切る。鍛冶屋が金具を作る。馬車職人が組み立てる。すぐ隣なら、一日で終わる仕事も増えるはずです」
父も図面を見ながら口を開く。
「面白い。軍でも補給基地は一か所へまとめる。必要な物を近くへ置けば、それだけ早く動ける」
私は思わず笑ってしまった。
「考えることは同じですね」
父も小さく笑う。
「ああ」
数日後。
工事が始まった。
帰還兵達も嬉しそうに働いている。
「今度は工房を建てるのか」
「また仕事が増えたな」
木材が運ばれ。柱が立ち。
新しい建物が少しずつ形になっていく。
私はその様子を眺めながら呟いた。
「何だか……」
前世を思い出す。
町外れにあった小さな町工場。
鉄工所。木工所。自動車整備工場。
別々の建物だったが、気付けば同じ地域へ集まっていた。
職人同士が協力し、部品を作り、修理をし、新しい物を生み出していた。
私は思わず笑ってしまう。
「工房っていうより……前世の町工場みたいになってきたわ!」
もちろん、この領地には工作機械も電気もない。
それでも、人が集まり、技術が集まり、仕事が集まれば、新しい価値は生まれる。
私は完成しつつある工房を見つめる。
「ここから、もっと面白くなるわね」
鍛冶屋。木工所。馬車修理場。
それぞれは小さな工房に過ぎない。
しかし、それらが一つに集まることで、この場所は少しずつ新しい産業の中心へと姿を変え始めていた。
後にシュタインベルク領初の「工業地区」と呼ばれることになる場所は、この日、小さな一歩を踏み出したのだった。




