表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
平和を望んだ少女は、戦争へ進む。 〜敗戦国の再建を目指した少女の誤算〜  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
58/207

紙幣が余る

翌朝。私はいつものように新聞を広げていた。

まず見るのは経済欄。そして社会面。

最後に広告欄。


それが最近の日課になっていた。

私は一枚ずつ記事へ目を通す。


共和国政府の復興計画。


新しい法律。鉄道の復旧。

どの記事も希望に満ちた内容ばかりだった。

私は新聞を閉じ、首を傾げる。


「可笑しいわね……」


昨日、共和国の役人は言っていた。

他領では混乱が広がり始めている。

物価も上昇し、仕事も足りない。

治安まで悪化し始めていると。


それなのに新聞には、そのような記事がほとんど見当たらない。


私は小さくため息をついた。


「はぁ……戦争は終わっても、新聞は政府寄りなのね」


前世でも似たようなことは何度もあった。

戦時中ほどではない。だが、政府にとって都合の悪い話は、小さく扱われることが少なくなかった。

新聞だけ読んでいては、本当の景色は見えてこない。


私はもう一度新聞を開く。

今度は記事ではない。広告欄へ目を向ける。


「やっぱり……」


広告の数が減っている。

以前は店の宣伝が並んでいた。


靴屋。仕立て屋。喫茶店。


今はその半分ほどしかない。

代わりに増えているのは、


「求人」


「物資買い取り」


「倉庫貸します」


そんな広告ばかりだった。

さらに相場欄を見る。


小麦。石炭。布。


どれも先月より少し高い。

私はノートへ数字を書き写していく。

数字だけ見れば、小さな変化だ。

だが、流れは見えていた。


「紙幣が増え始めている。物は増えていない」


その差が少しずつ広がっている。


午後。


領地へ来ていた商人が父と話していた。


「首都では紙幣を抱えて市場へ行っても、欲しい物が買えないことがあります」


父が聞き返す。


「品切れか」


「ええ」


「紙幣はあるんです。ですが、売り物がない。だから皆、見つけたらすぐ買ってしまう」


私は静かにその話を聞いていた。

前世で何度も見た光景だった。

お金が足りないのではない。物が足りない。


その状態で紙幣だけ増えれば、人は競うように買う。そして価格は上がる。


私は窓の外を見つめる。


「入口ね……」


まだ誰もパニックにはなっていない。

確実に、一歩目は始まっていた。


幸い、シュタインベルク領は落ち着いている。


食料もある。木材もある。農具もある。


以前の判断が、今になって領地を支えていた。

私は小さく微笑む。


「あの時、現物へ替えておいて本当に良かった」


それでも安心はできない。

領地だけでは生きていけない。


塩。薬。鉄。


領外から買わなければならない物もある。

その時、紙幣の価値がさらに下がれば、領地にも必ず影響は及ぶ。


私はノートを閉じる。


「まだ始まったばかり、これから先が、本当の勝負ね」


窓の外では、穏やかな夏の日差しが領地を照らしていた。


だが、その穏やかさとは裏腹に、共和国の経済は静かに歯車を狂わせ始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ