初めての税収
夏の日差しが領館の窓から差し込んでいた。
私は執務室で帳簿を眺めている。
ほどなくして執事が分厚い帳簿を抱えて入ってきた。
「お嬢様、ご報告がございます」
「どうぞ」
執事は帳簿を開き、一枚の紙を差し出した。
「先月までの税収をまとめました」
私は数字へ目を通す。
前月。前々月。そして昨年同時期。
ゆっくり比較していく。
やがて執事が穏やかに口を開いた。
「昨年より税収が増えております」
私はもう一度数字を見直した。
確かに増えているが劇的ではない。
それでも、はっきりと分かる程度には増加していた。
「市場の売買が増えております。荷車の往来も増えました。鍛冶屋の仕事も以前より多くなっております」
私は帳簿を閉じる。
嬉しくないと言えば嘘になる。
だが、それ以上に感じたことがあった。
「これは……」
私は静かに微笑んだ。
「領民が豊かになった証拠ね」
執事も嬉しそうに頷く。
「その通りでございます」
午後。
父も執務室へやって来た。
私は帳簿を父へ渡す。
「税収が少し増えました」
父は数字へ目を通し、小さく頷く。
「順調だな」
私は首を横へ振った。
「税収が増えたこと自体を喜ぶつもりはありません」
父が興味深そうに私を見る。
「ほう」
私は帳簿を指差した。
「税は、取るものではありません。領民が安心して働き、商売ができるようになれば、自然と集まるものです」
父は静かに腕を組んだ。
私は続ける。
「もし税だけを増やそうとすれば、領民は苦しくなります。苦しくなれば商売も止まります。商売が止まれば税も減ります」
私は窓の外を見る。
市場では今日も荷車が行き交っている。
子供達が走り回り、商人の呼び声が聞こえてきた。
「あの人達が安心して暮らせること。その結果として税が増える。それが一番理想です」
父は静かに笑った。
「軍とは考え方が違うな」
私は微笑み返す。
「でも目的は同じです。領地を守ること」
父は大きく頷いた。
「確かにな」
その日の夕方。
私は市場を歩いていた。パン屋には客が並び。
鍛冶屋では新しい弟子が汗を流している。
橋を渡る荷車も以前より増えていた。
私はゆっくりと町を見回した。
まだ復興の途中だ。豊かとは言えない。
それでも、半年前とは明らかに違う。
人々の表情には少しずつ笑顔が戻り始めていた。
「焦らなくていい」
私は小さく呟く。
「一歩ずつ前へ進めばいい」
屋敷へ戻ると、新しい新聞が届いていた。
私は何気なく一面を開く。
大きな見出しが目に飛び込んできた。
『九一九年 夏 イマル憲法制定』
『イマル共和国 樹立』
私は記事を最後まで読み終え、静かに新聞を閉じた。
「ついに、新しい時代が始まるのね」
帝国は終わった。
そして今、新たな共和国が歩み始めようとしている。その国がどこへ向かうのか。
誰にもまだ分からない。
私は窓の外へ視線を向ける。
まずは、この小さな領地を守ること。
それが今の私にできる、未来への第一歩だった。




