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平和を望んだ少女は、戦争へ進む。 〜敗戦国の再建を目指した少女の誤算〜  作者:


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鍬が足りない

橋の補修が終わる頃には、領地の空気も少しずつ変わり始めていた。

鍛冶屋の工房では、朝から晩まで槌の音が響いている。

私は工房の様子を見に来ていた。


「親方、お邪魔します」


「お嬢様!」


親方は煤だらけの顔で笑った。

しかし、その笑顔は少し疲れているようにも見える。


工房の中には、修理待ちの農具が山積みになっていた。


鍬。鋤。鎌。荷車の金具。


注文書も机いっぱいに積まれている。

私は思わず苦笑した。


「随分と忙しそうですね」


親方は頭をかく。


「ありがたい話なんですがね。仕事が増えすぎまして」


私は注文書を一枚手に取る。


「全部、農具ですか?」


「ええ」


親方は頷く。


「武器を鍬へ作り替えたって噂が広がりましてね。うちにも次々と依頼が来るんです」


私は工房を見回した。

炉は一つ。金床も数えるほど。


職人は三人。


親方を含めても四人しかいない。


「鉄は足りていますか?」


親方は笑った。


「鉄はあります。回収した武器のお陰で、当面は困りません」


私は安心する。


「なら問題は?」


親方は肩をすくめた。


「人ですよ。人手が足りません」


その一言だった。

私は静かに考える。


資材はある。注文もある。技術もある。

それなのに作れない。

理由は働く人がいないから。

私は前世でも何度も見てきた。

設備だけでは工場は動かない。


最後に必要なのは、人だ。


「なら」


私は親方を見る。


「弟子を育てましょう」


工房が静まり返る。親方が目を丸くする。


「弟子……ですか?」


「はい」


私は頷いた。


「今いる職人だけでは足りません。これから先も仕事は増えます。なら、今のうちに育てるべきです」


親方は腕を組んだ。

しばらく考え込み、やがてゆっくり頷く。


「確かに、その通りですな」


私は執事へ向き直る。


「まずは帰還兵の方々へ声を掛けましょう」


執事は頷く。


「仕事を探している方はまだ大勢おります。経験がなくても構いません。一から教えます」


親方も笑う。


「熱意があるなら歓迎です」


「それでも足りなければ」


私は続ける。


「領内から募集を掛けましょう。若い人達にも来てもらいます」


執事が少し驚く。


「鍛冶屋になりたい者がいるでしょうか」


私は微笑む。


「最初から鍛冶屋になりたい人は少ないでしょう。でも、仕事があり、技術が身に付くなら話は別です」


親方も深く頷いた。


「技術は、一生食べていける財産ですからな」


数日後。

工房の前には帰還兵が集まっていた。


「鍛冶仕事なんて初めてだ。俺にできるかな」


不安そうな声も聞こえる。

親方は大きな声で笑った。


「安心しろ!」


「最初から上手い職人なんて一人もいねえ!」


工房に笑いが広がる。

その日、新しく五人の弟子が生まれた。


私は少し離れた場所から、その様子を見守っていた。


戦争では兵士を育てる。

平和では職人を育てる。


それだけの違いなのかもしれない。

私は工房から響く槌の音を聞きながら、小さく呟く。


「人を育てることが、一番時間が掛かる」


だからこそ今、始める意味がある。


橋を直すことも大切。

農具を作ることも大切。

だが、それ以上に。


技術を受け継ぐ人を育てることこそが、この領地の未来を支える土台になる。


私は青空を見上げる。


「急いでは駄目」


「十年後、二十年後のために」


そう呟いたヴィーダーベレの視線の先では、新米の弟子が真っ赤に熱した鉄へ、ぎこちなく槌を振り下ろしていた。

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