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平和を望んだ少女は、戦争へ進む。 〜敗戦国の再建を目指した少女の誤算〜  作者: 稔


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敵軍の規模

共和国総統執務室。


ベレは机の上に置かれた報告書へ目を通していた。


「総統」


ラインが新たな書類を差し出す。


「国防省と情報省から、最新の報告が届いております。まず国防省から」


「はい」


ラインが報告書を読み上げる。


「ポランド方面では、共和国軍がポランド軍を排除しつつ、予定通り進軍中です。航空隊による支援も継続されており、現在のところ大きな遅れはありません」


ベレは頷く。


「順調なのね」


「はい」


「問題は……その先か」


ラインが別の資料を取り出す。


「国防省と情報省による分析では、シア軍の兵力について、現在八〇万人から一二〇万人程度と推測されています」


「……」


ベレの手が止まる。


「かなりの数ね」


「はい」


「我が軍との兵力差は?」


「現時点では、共和国軍の方が約三〇万人ほど多いと推測されます」


ベレは少し考える。


「三〇万人……」


地図へ目を向ける。


「数字だけなら、こちらが有利ですが……」


ラインが続ける。


「シア軍はすでにフィン方面、ポランド方面、そして共和国国境方面へ部隊を展開しております。つまり、単純な兵力差だけでは判断できません」


「そうね」


ベレは小さく息を吐く。


「三〇万人も多いのに……何とも言えない差ね」


「はい」


「兵士の数だけで戦争が決まるわけじゃない。装備、練度、補給、航空戦力、それに指揮系統……」


ベレは一つずつ指を折る。


「どれも重要ね」


ラインが頷く。


「その通りです」


ベレはしばらく地図を見つめる。


「なら、ポランドを早く終わらせる必要があるわね」


「はい」


「それと……」


ベレは机の上のポランド政府関連資料へ目を向ける。


「ポランド政府へ降伏勧告を」


ラインが少し驚く。


「今、ですか?」


「ええ。戦闘を続ければ、ポランド軍にも民間人にも被害が増える。それに、我々がポランドを占領することが目的ではない。シアとの戦争を終わらせるために必要な地域を確保することが目的よ」


「分かりました」


ラインが書類へ目を落とす。


「降伏条件については?」


ベレは少し考える。


「ポランド軍には武装解除を求める。ただし、兵士の命は保証する。民間人への攻撃も行わない。政府関係者についても、無用な報復はしない」


ラインが頷く。


「承知しました」


ベレは再び地図を見る。


「ポランドが早く戦場から離れてくれれば、それだけシア軍との戦いに集中できる。そして……」


ベレの視線が、さらに東へ向かう。


「本当の敵と向き合うことになる」


共和国軍の前には、これまでとは比較にならない規模のシア軍が待ち構えていた。


「それと……」


ベレはふと顔を上げる。


「各国の反応は、あれから特に変化はある?」


ラインは手元の資料を確認する。


「いえ。今のところ、大きな変化はありません」


「そう……」


「フィン、ルマニア、ガリーからの支持も変わらず?」


「はい」


「それ以外の国からは?」


「今のところ、目立った動きはありません」


ベレは少し考える。


「輸出入品に関しては?」


「そちらも、今のところ何もありません」


「輸送も通常通り?」


「はい」


「港湾への入港制限や、輸出停止などの動きもありません」


「うーむ……」


ベレは椅子へもたれ、腕を組む。


「特に変化なし、か……」


「はい」


「戦争を始めた直後だから、何かしら変わると思っていたけど」


ラインが答える。


「各国とも、まだ情勢を見極めているのではないでしょうか?共和国が勝つのか?シアが勝つのか?それを確認してから動くつもりなのかもしれません」


「なるほどね……」


ベレは机の上の地図を見る。


「今は、誰も味方にも敵にもなりたくない。そんなところか」


「恐らくは」


「まあ、仕方ないわね」


ベレは小さく息を吐く。


「こちらから無理に動かす必要もないか。戦況が変われば、嫌でも各国は判断を迫られる。その時に、共和国を選んでもらえるようにしておきましょう」


ラインが頷く。


「はい」


ベレは再び書類へ目を落とした。

今のところ、世界は共和国を静かに見ていた。


しかし、その静けさがいつまで続くのかは、誰にも分からなかった。

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