霧の海戦
リン港近海。
ドン!ドン!ドン!
濃霧の中に、共和国戦艦の砲声が響き渡る。
「着弾!」
「輸送船に命中!」
「一隻炎上しています!」
艦橋では、次々と報告が飛び交っていた。
「よし」
艦長は電探へ目を向ける。
「他に船は?」
「複数確認!」
「しかし、港の方向から新たな反応があります!」
「何だ?」
「艦艇と思われます!」
艦長の表情が変わる。
「シア海軍か……」
副艦長が海図を見る。
「距離は?」
「まだ遠いですが、こちらへ向かっているようです」
「やはり来たか」
艦長は迷わない。
「砲撃を続ける」
「しかし、敵艦が接近しております!」
「分かっている。我々の目的は、敵艦隊と戦うことではない。補給船を叩き、フィン軍を助けることだ」
「はっ!」
再び砲塔が旋回する。
「目標、輸送船!」
「撃て!」
ドン!ドン!
砲弾が霧の向こうへ飛んでいく。
一方、リン港。
「何だ、この砲撃は!」
「港の輸送船が攻撃されています!」
「敵はどこだ!」
「分かりません!」
「霧が濃すぎます!」
港湾司令官が苛立つ。
「沿岸砲は何をしている!」
「目標を確認できません!」
「こちらも敵艦の位置を完全には特定できていません!」
「一体どこから撃っているんだ!」
その頃、シア海軍の艦艇が霧の中を進んでいた。
「前方、何も見えません!」
「敵艦の数は?」
「砲撃音ですと、二隻と思われます!」
艦長が驚く。
「二隻だと?」
「はい」
「この霧の中で、港を攻撃しているのか……?」
その頃、共和国戦艦。
「艦長!」
「何だ?」
「敵艦が近づいています!」
「距離は?」
「徐々に縮まっています!」
艦長は少し考える。
「そろそろ引き上げる」
「よろしいのですか?」
「ああ。目的は十分に果たした。輸送船を撃破し、港湾施設にも損害を与えた。ここで敵艦隊と正面から戦う必要はない」
副艦長が頷く。
「では、離脱を?」
「そうだ」
「針路、北!霧を利用するぞ」
「はっ!」
二隻の共和国戦艦は、ゆっくりと進路を変える。
「砲撃停止!総員、離脱準備!」
「はっ!」
その直後。
ドン!
遠くから砲声が響いた。
「敵の砲撃です!」
「距離は?」
「まだ届きません!」
艦長は霧の向こうを見つめる。
「焦るな!こちらには、この霧と電探がある。敵より先に見つけて、敵より先に逃げる」
二隻の戦艦は、霧の中へ姿を消していった。
数時間後。シア軍司令部。
「リン港が攻撃された?」
「はい」
「輸送船を複数撃破され、港湾施設にも被害が出ています」
「敵艦は?」
「確認できませんでした」
「……」
司令官は報告書を握り締める。
「共和国か?」
「おそらく」
「フィン湾へ艦隊を送り込んだというのか……」
参謀が答える。
「二隻の戦艦と推定されています。しかも、霧の中でこちらより先に敵を発見していた可能性があります」
司令官は地図を見る。
「陸では共和国軍」
「空にも共和国空軍」
「そして海まで……」
シア軍にとって、共和国はもはや単なる隣国ではなかった。
陸、空、海。
共和国は、あらゆる方向からシア軍へ圧力を掛け始めていた。
そしてその頃、共和国総統府にも海軍から一報が届いていた。
「総統。フィン湾方面の艦隊から報告です」
ベレが顔を上げる。
「どうだった?」
「作戦成功。リン港周辺の輸送船を複数撃破したとのことです」
ベレは少しだけ笑う。
「……旧式戦艦も、まだまだ使えるわね」
「はい」
「でも、無茶はさせないで」
「一隻でも失ったら……次はもっと慎重に」
「承知しました」
ベレは地図へ目を向ける。
「陸、空、海……ようやく、共和国らしい戦い方が見えてきた気がするわ」
共和国軍の戦いは、さらに新たな段階へ入ろうとしていた。




