無条件降伏
共和国総統執務室。
ベレは各国から届いた報告書を並べていた。
「……各国とも、何も動かない」
ラインが頷く。
「はい」
「輸出入も?」
「今のところ、変化はありません」
ベレは椅子に深く腰掛ける。
「これは……我が国を支持している、と解釈することもできるわね」
「支持しているというより、少なくとも反対はしていない、ということでしょうか」
「そうね」
ベレは考え込む。
「もし共和国の行動を問題視しているなら、何らかの圧力を掛けてくるはず」
「輸出停止や、外交的な抗議なども考えられます」
「それが何もない」
「はい」
「……みんな、結果待ちか」
ラインは答えず、静かに頷いた。
その時、執務室の扉が開く。
「総統。外務省から、ポランド政府について報告が入っております」
ベレが顔を上げる。
「ポランドから?」
「はい」
ラインが書類を受け取り、内容を確認する。
「共和国政府からの降伏勧告について、ポランド政府から回答が届きました」
「何て?」
「共和国政府の降伏勧告を受諾する、とのことです」
ベレは少し驚く。
「受諾……ただし、条件があります」
「条件?」
ラインが読み上げる。
「ポランド軍は武装解除する。その代わり、共和国軍はこれ以上、ポランド国内へ進軍しないこと」
ベレはしばらく黙っていた。
そして、ゆっくりと首を横に振る。
「それは無理ね」
「……はい」
「シア軍がまだポランド国内にいる。ここで共和国軍が止まったら、どうなる?」
ベレは地図を広げる。
「シア軍が再編成する時間を与えるだけ。そして、ポランド国内にいるシア軍が、そのまま共和国国境へ向かってくる可能性もある」
「はい。それでは、何のためにここまで進軍したのか分からない」
ベレは書類へ目を向ける。
「ポランド政府には、こう返しましょう」
「はい」
「共和国はポランド軍との戦争を終わらせる用意がある。しかし、シア軍がポランド国内に存在する以上、共和国軍の進軍を止めることはできない。そして……」
ベレは一呼吸置く。
「降伏するのであれば、条件は付けられない」
ラインが確認する。
「無条件降伏、ということですね?」
「ええ」
「そう伝えて」
「承知しました」
ラインが書類をまとめる。
ベレは窓の外へ視線を向ける。
「ポランドを占領したいわけじゃない。でも、シア軍がいる限り、ここで止まるわけにはいかない。戦争を終わらせるために、戦争を続けなければならないなんて……」
小さく息を吐く。
「皮肉なものね」
共和国軍の進撃は、止まらなかった。
そしてポランド政府は、国家の命運を左右する決断を迫られることになった。
「うーむ……」
ベレは机の上に広げられた地図を見る。
「戦線の状況を、もう少し詳しく知りたいわね。国防省からも報告は来ているけど……」
机の上には、いくつもの報告書が積み上がっている。
「この忙しい時に、軍の人たちを呼びつけるのも悪いし……」
ベレは少し考える。
「そうだ。ヘルムさんに説明してもらおうかな。情報省の報告だけじゃなくて、あの人なら戦場の状況もかなり把握しているし」
「それに……」
ベレは小さく笑う。
「私の軍事知識がどの程度なのかも分かっているから、分かりやすく説明してくれそう」
ラインが頷く。
「確かに、ヘルム大臣なら適任かと思います」
「でしょう?」
ベレは書類を一度整理する。
「ラインさん」
「はい」
「ヘルムさんに、戦線の状況を詳しく知りたいから、準備が出来次第、私のところへ来て欲しいと伝えて」
「分かりました」
ラインは一礼すると、すぐに部屋を出ていった。
ベレは再び地図を見る。
ポランド。フィン。
そして、その先に広がるシア。
「さて……今、戦場では何が起きているのかしらね」
共和国軍の進撃は続いていた。
しかし、その先には、まだベレの知らない戦場の現実が待っていた。




