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平和を望んだ少女は、戦争へ進む。 〜敗戦国の再建を目指した少女の誤算〜  作者:


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最初の雇用

数日後。


領館の中庭には十数名の帰還兵が集まっていた。皆、どこか緊張した面持ちだ。


軍服を着ている者。すでに私服へ着替えた者。

年齢も様々だった。


二十代前半の若者もいれば、三十代を超えた者もいる。


私は母の隣に立ち、一人ひとりを見つめた。

今日から、この領地で最初の雇用が始まる。

母が前へ出る。


「本日は集まってくださり、ありがとうございます」


兵士達は静かに頭を下げる。

その表情には、不安と期待が入り混じっていた。


母は続ける。


「皆さんには領地の復旧を手伝っていただきたいと思います」


ざわめきが広がる。だが私は一歩前へ出た。


「その前に、お聞きしたいことがあります」


全員の視線が集まった。


「戦争へ行く前は、どのようなお仕事をされていましたか?」


兵士達は顔を見合わせる。

予想外の質問だったのだろう。


最初に手を挙げたのは、一人の男性だった。


「大工でした」


私は頷き、紙へ書き留める。

続いて。


「石工です」


「鍛冶屋です」


「馬車職人でした」


「農夫です」


「橋の修理をしていました」


思った以上に様々だった。

私は心の中で少し安心する。

兵士だけではない。彼らには、それぞれ元の仕事があった。


もちろん、中にはこう答える者もいた。


「十八で入隊しました。兵士しかやったことがありません」


私は頷いた。

それも予想していた。


「分かりました」


責める理由はない。

戦争が人生を変えてしまったのだ。


全員の話を聞き終えると、私は紙を見つめた。

そして執事へ渡す。


「大工と橋の修理経験者は第一班へ」


「鍛冶屋は工房へ」


「馬車職人は荷車の修理へ」


「農夫は開墾班へ」


執事が驚く。


「職種ごとに分けるのですね」


「はい」


私は微笑んだ。


「経験は財産です」


「一から覚えるより、その方が早いでしょう」


最後に残ったのは、職業軍人達だった。

私は彼らを見回す。皆、少し不安そうだった。


「皆さんには、お願いがあります」


「領地の治安隊へ入っていただけませんか」


一人の男性が驚く。


「我々を……ですか?」


「ええ」


私は頷いた。


「最近、盗難も増えています。領民を守る仕事です」


男はしばらく考えた後、深く頭を下げた。


「喜んで」


周囲の兵士達も次々に頷いた。


その日の午後。

橋の補修工事が始まった。

傷んだ欄干を外す者。木材を測る者。

荷車で資材を運ぶ者。

数日前まで戦場にいた男達が、今は橋を直している。


私はその光景を静かに見つめていた。

一人の若い帰還兵が私へ近付いてくる。


「お嬢様」


「何かしら?」


「正直に言います」


彼は少し恥ずかしそうに笑った。


「最初は土木仕事かと思いました。兵士だった俺にできるのか、と」


私は頷く。

当然の反応だろう。

彼は橋へ目を向ける。


「でも……橋が直れば、子供達も安心して渡れます。村の人も助かります」


少し照れながら笑う。


「悪くない仕事ですね」


私は自然と笑みが浮かんだ。


「仕事に貴賤はありません」


その言葉に全員が顔を上げる。

私は一人ひとりを見ながら続けた。


「家族を養える仕事こそ、今、一番必要な仕事です」


誰も何も言わなかった。

だが、その言葉は静かに彼らの胸へ届いたようだった。


夕暮れ。

橋には新しい木材が取り付けられていた。

まだ完成ではない。

だが昨日より確実に前へ進んでいる。

私は静かに橋を見つめる。

前世では、戦争が終わった後の国々を何度も見てきた。


そこで学んだことがある。

国は、一日で壊れることはあっても、一日で立ち直ることはない。


一本の橋。一人の雇用。一つの仕事。


その積み重ねが、やがて国を支える。

私は夕日に照らされる橋を見ながら、小さく頷いた。


「焦らなくていい。一歩ずつ、前へ進みましょう」


その小さな一歩が、敗戦国再建への確かな第一歩となった。

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