目覚めた部屋
目を覚ましてから、二週間が過ぎたらしい。
……らしい、というのも、自分では時間の感覚がほとんどなかったからだ。
眠っては目を覚まし、また眠る。
その繰り返しだった。
ようやく最近になって、微かに声が出せるようになった。
それでも身体は思うように動かない。
首を動かすだけで精一杯だった。
「……み……ず……」
かすれた声だった。
それでも、部屋の隅にいた女性が飛び上がるように振り向いた。
「お嬢様!」
慌てて駆け寄ってくる。
やはり、その呼び方だ。
……まだ言うのか。
私は四十を過ぎた外交官だ。
独身で、肩書きだけは立派だったが、「お嬢様」と呼ばれる人生とは無縁だった。
よほど人違いをしているんだな。
そう結論づける。
外交の現場では、思い込みは命取りになる。
まずは事実を集める。それが私の仕事だった。
私はゆっくりと視線を天井へ向けた。
高い。やけに高い天井だ。
白い漆喰。木製の太い梁。
その中央には、見たこともない細かな装飾が施されている。
病院には見えない。
ベッドも妙だった。天蓋付き。
四方から白い薄布が垂れ下がっている。
まるで映画で見た貴族の寝室のようだ。
どこかの歴史的建造物を臨時病院にしたのか?
戦場では珍しくない。
学校。教会。役所。
使える建物は何でも病院になる。
そう考えれば納得できる。
身体を少し動かそうとして、左腕に違和感を覚えた。
管が繋がっている。
点滴か。助かったのか……
そう思った。右目は開かない。
包帯が巻かれているらしい。
頭にも何重にも布が巻かれている感覚がある。
かなりの重傷だったのだろう。
砲撃の破片が当たったのかもしれない。
私は静かに息を吐いた。
他の人たちは……避難民。あの少女。
同僚。誰か助かったのだろうか。
考えようとすると、胸が締め付けられる。
「先生をお呼びします!」
女性は部屋を飛び出していった。
私は一人、静かな部屋に取り残される。
暖炉の薪が静かに燃えていた。
……暖炉?
病院で暖炉を使うだろうか。
いや、古い建物ならあるかもしれない。
そう自分に言い聞かせる。
だが、違和感は一つではなかった。
壁には電気のスイッチがない。
天井にも照明が見当たらない。
医療機器の電子音もしない。
消毒液の匂いもしない。
代わりに漂うのは、木と蝋燭、それに薬草の香りだった。
……何かがおかしい。
外交官として長年培った勘が、小さく警鐘を鳴らし始めていた。




