国境を越えた爆撃
共和国・ポランド国境検問所。
避難民の列は、どこまでも続いていた。
共和国軍の兵士たちは、休む間もなく誘導を続けている。
「かなりの人数だな……」
「そうだな。この人数じゃ、トラックがいくらあっても足りん」
指揮官は地図を広げながら指示を飛ばした。
「駅までトラックで運び、降ろしたらすぐ戻せ!」
「体力のある者は悪いが徒歩で移動してもらえ!」
「子どもと高齢者を優先しろ!」
「はっ!」
兵士たちは慌ただしく走り出した。
「こりゃ、大変なこった……」
「まだまだ増えそうだぞ」
その様子を、高台から複数の新聞記者が見つめていた。
その中には、ウス・ライの姿もあった。
双眼鏡を覗き込みながら呟く。
「人の列が凄まじいな……」
隣の記者も頷く。
「ああ。まるで終わりが見えない」
別の記者は大型望遠鏡をポランド方面へ向けていた。
「……ん?」
「どうした?」
「かなり遠くだが、黒い煙が上がってる」
皆が望遠鏡を覗き込む。
遠くの空へ、細い黒煙が何本も立ち上っていた。
「火災か?規模は?」
「そこまでは分からん。しかし、あれだけ煙が見えるってことは、小火じゃない。市街地が攻撃を受けているのかもしれん……」
その時だった。
ウゥーーーーーン!
ウゥーーーーーン!
警報サイレンが検問所に鳴り響く。
「何だ?空襲警報か?」
一人の兵士が耳を澄ませた。
「静かに!」
全員が息を潜める。
ブゥゥゥゥン……
「エンジン音だ」
「どこからだ?」
兵士が空を指差した。
「東の空だ!」
ウス・ライは慌てて双眼鏡を空へ向ける。
青空の彼方に、小さな黒い点がいくつも見えた。
「何だ、あれは……」
じっと見続ける。
やがて機影がはっきりしてきた。
「双発機だ!かなりの数だぞ!」
「ポランド空軍か?」
しかし、飛行方向がおかしい。
一直線に共和国国境へ向かってくる。
「いや……違う!機体の翼を見ろ!」
「赤い星だ!シア空軍だ!」
その場にいた全員の顔色が変わる。
「なっ!?何でこんな所まで!」
「まさか……!」
次の瞬間。
ピューーーーーン!
ピューーーーーン!
甲高い爆弾の落下音が空を切り裂く。
「伏せろーーっ!」
ドォォォン!!
ドォォォン!!
検問所近くで爆発が起き、土煙が舞い上がる。
避難民たちは悲鳴を上げ、一斉に逃げ惑った。
「国境を越えて爆撃してきたぞ!共和国領内だ!」
さらに別のエンジン音が近づいてくる。
ブロロロロ……
ブロロロロ……
兵士が空を見上げる。
「あの音は……!」
雲の切れ間から飛び出してきたのは、共和国空軍の一〇九戦闘機だった。
独特の水冷エンジン音を響かせながら、一気に高度を上げていく。
「迎撃隊だ!共和国空軍が来たぞ!」
一〇九の編隊はシア爆撃機へ向かって一直線に突撃した。
共和国領空を巡る、最初の空中戦が始まろうとしていた。
その頃、共和国総統府。
執務室の扉が勢いよく開かれた。
「総統! 緊急報告です!」
ベレは立ち上がる。
「どうしたの!」
「シア空軍の爆撃機が、我が国とポランド国境付近を爆撃しました!避難民や共和国兵にも被害が発生しております!緊急発進した一〇九戦闘機隊が、現在迎撃中です!」
「なっ……!」
ベレは思わず拳を握り締めた。
「畜生……!民間人まで攻撃するなんて!」
ラインが静かに声を掛ける。
「総統……」
ベレは一度目を閉じ、大きく息を吸う。
そしてゆっくりと目を開いた。
その表情には怒りとともに、総統としての決意が宿っていた。
「外務省へ」
「はっ!」
「シア国に対し、共和国は今回の爆撃を宣戦布告に等しい武力行使として受け取ると正式に通達してください」
「承知しました!」
「それとポランド政府にも伝えて。共和国軍を通過させるよう要請してください」
ラインは確認する。
「もし拒否された場合は?」
ベレは迷うことなく答えた。
「時間はもうない。拒否するのであれば、シア軍の侵攻を黙認したものと共和国は認識すると伝えて」
ラインは一瞬息を呑んだ。
「……よろしいのですか?」
ベレは力強く頷く。
「再度命令します。総統命令第一号を発令」
部屋の空気が一変する。
「これより共和国は、軍事作戦を支えるため国家のあらゆる資源を軍事・救援活動最優先とします。国防省には、直ちにシアに対する防衛作戦計画を立案・実施するよう命じます」
「空軍は領空警戒を強化」
「陸軍は国境防衛線を確立」
「海軍は全艦隊を即応待機」
国防大臣は立ち上がり、力強く敬礼した。
「はっ!」
ベレは窓の外を見つめ、小さく呟く。
「望んだ戦いじゃない……でも、この国と、この国に逃れてきた人たちは必ず守る」
共和国はついに、国家総力を挙げてシアとの対峙を決断した。




