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平和を望んだ少女は、戦争へ進む。 〜敗戦国の再建を目指した少女の誤算〜  作者: 稔


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揺れる外交

共和国総統執務室。


ベレは机に肘をつき、指先で静かに机を叩いていた。


トントントン……


執務室には時計の針だけが静かに時を刻んでいる。


「ポランド政府から、まだ返事はないのね……」


ラインは小さく頷いた。


「はい」


「外務省も再度問い合わせを行っておりますが、回答は届いておりません」


ベレは窓の外へ目を向ける。


「それに、ヘルムさんから気になる報告も来ていたわね」


ラインは資料をめくる。


「情報省によりますと、ポランド軍の一部部隊が西へ移動しているとのことです」


ベレは腕を組む。


「西へ……」


「避難民を守るために共和国国境へ向かっているのか」


「それとも……」


言葉を切る。


「我が国の軍の動きを警戒しているのか」


再び机を指で叩く。


トントントン……


「チッ……」


思わず小さく舌打ちが漏れた。


「私は攻め込まないと何度も表明している」


「人道支援も発表した」


「避難民の受け入れも準備している」


「確かに飛行場の使用許可はお願いしたけれど……」


ベレは苦笑する。


「疑われるのも無理はないのかもしれないわね」


先の大戦。


その記憶は、まだ各国に色濃く残っている。

信頼は、一朝一夕では築けない。


ベレは小さく息を吐いた。


「でも……」


「時間だけは取り戻せないのよ」


戦場では、一時間、一日という時間が、多くの命を左右する。


その重みを、ベレは誰よりも理解していた。


ラインも静かに続ける。


「各国とも、現在は様子見の姿勢です」


「ポランド軍も相応の兵力を保有しております」


「シア軍の侵攻を食い止められると判断している国も少なくありません」


ベレは首を横に振った。


「もし負けが見えてから動くようでは、もう遅い」


「その時には国境まで戦火が迫っているかもしれない」


ラインはもう一枚の書類を差し出した。


「それと、外務省から新たな報告です」


ベレは受け取る。


「ガリー共和国とルマニア王国が、極秘に我が国との同盟締結を希望しております」


ベレは驚いた表情を見せる。


「同盟?」


「はい」


「両国とも、ポランドが敗れれば次は自国ではないか、と危機感を強めております」


ベレは書類を閉じた。


「シアを恐れているのね」


「そのようです」


執務室に再び静寂が戻る。


ベレは椅子にもたれ、小さくため息をついた。


「ふぅ……」


「外交って、本当に思いどおりにはいかないわね」


敵の動き。味方の不安。中立国の思惑。


そのすべてを見極めながら、一つひとつ判断を下していかなければならない。


共和国は今、大きな外交の岐路に立たされていた。


ベレは再び机を指先で軽く叩いた。


トントントン……


しばらく地図を見つめたあと、静かに口を開く。


「ラインさん」


「はい」


「外務省へ通達してください。ガリー共和国とルマニア王国に対し、極秘に同盟交渉を開始し」


ラインはすぐに手帳を開く。


「同盟締結ですね」


「ええ。ただし、相手の条件、こちらの条件もしっかり確認してください。こちらの条件も含め、慎重に擦り合わせを。性急に結論を出す必要はありません。互いに納得できる形を探しましょう」


ラインは力強く頷く。


「承知しました。直ちに外務省へ通達いたします」


ベレは執務室の壁に掛けられた大きな地図の前へ歩み寄った。


ガリー。ルマニア。そして共和国。

指先でゆっくりと国境をなぞる。


「もし両国と協力できれば……」


小さく呟く。


「ガリーとルマニアには後方から支援してもらう。そして共和国が壁になる」


ラインも地図を見つめながら頷いた。


「三国が連携すれば、防衛線にも厚みが生まれます」


「ええ」


「同盟は戦争をするためじゃない。戦争を起こさせないための抑止力にもなる」


ベレは静かに腕を組んだ。


「シアが『攻めれば三国を相手にする』と思えば、それだけでも侵攻を思いとどまるかもしれない」


ラインは穏やかに微笑む。


「それが外交の力、ということですね」


ベレも小さく頷いた。


「武器だけでは国は守れない。信頼できる友好国がいてこそ、本当の安全保障になるのだから」

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