世界の思惑
シア軍によるニア地方三ヶ国への電撃侵攻。
そして、ポランドへの攻撃開始。
その報せは瞬く間に世界中を駆け巡った。
各国の首脳は緊急会議を開き、それぞれの対応を迫られていた。
ギリス王国。
首相は地図を見つめながら口を開く。
「フィンでは小国相手に苦戦していたというのに……今度はニア地方の三ヶ国へ電撃侵攻か」
外務大臣が頷く。
「しかも、わずかな期間で占領を完了したとの報告です」
首相は静かに呟く。
「シアの狙いは何だ……」
メリカ合衆国。
大統領執務室。
「海の向こうの出来事だ」
大統領は短く言った。
「だが、情報収集だけは怠るな。各国の動きも含めて監視を続けろ」
「はい」
ランス共和国。
統合作戦本部。
「馬鹿な!」
外相が机を叩く。
「同盟国である我々に、何の事前連絡もなかったというのか!」
軍幹部が静かに答える。
「そのようです。シアは単独で行動したものと思われます。勝手な真似を……」
会議室には重苦しい空気が流れた。
――ルマニア王国。
国王は共和国との国境を示す地図を見つめる。
「次は我が国かもしれぬ」
国防大臣が頷く。
「その可能性は否定できません」
「共和国から購入した航空機と戦車の納入を急がせろ!国境線の防御陣地も増強する」
「直ちに取り掛かります」
フィン共和国。
国防会議。
「世界の目を逸らす気か」
参謀総長は険しい表情を浮かべた。
「フィン戦線で思うような成果が出ない」
「だから新たな戦場を作った……」
「その可能性は高いでしょう」
本国。
統帥本部。
一人の将軍が地図を指差した。
「現在、シア軍の主力は西へ向いております。ならば、この隙に北方の油田地帯、あるいは不凍港の確保を検討すべきではありませんか」
別の将軍も頷く。
「好機ではあります」
しかし外務大臣は慎重だった。
「軽率に動けば、新たな戦争を招きかねません」
議論は深夜まで続いた。
こうして世界各国は一斉にシアを非難する声明を発表した。
しかし、その裏では各国とも自国の利益と安全保障を天秤にかけながら、次の一手を模索していた。
「シアは止まらない……」
それは、多くの国が抱いた共通の認識だった。
経済制裁。外交圧力。軍備増強。
ある国は対話を選び、ある国は備えを選ぶ。
世界は今、新たな時代の入り口に立たされていた。
会議が終わる頃、ラインが新たな報告書を手に口を開いた。
「総統。国境方面へ展開した部隊の状況です」
ベレは顔を上げる。
「軍の展開はどう?」
「はい。既に一部部隊は国境方面へ進出しております。現在は国境警備と避難民の誘導、後方への輸送を開始しております」
ベレは安堵した表情を浮かべた。
「早く展開できて良かったわ」
ラインは微笑みながら答える。
「総統が以前から進めてこられた高速道路計画と鉄道整備の成果です。部隊も物資も、以前とは比較にならない速度で移動できております」
ベレは少し照れくさそうに笑った。
「……そうね。あの頃は、こんな形で役に立つなんて考えていなかったけど」
道路も鉄道も、経済だけではない。
有事には人命を守るための重要な基盤となる。
改めて、その重要性を実感していた。
ベレは次の報告を促す。
「ポランドからは、何か返答は?」
ラインは首を横に振った。
「まだありません。どうやらポランド政府内では、『シアの侵攻に乗じて共和国も西側から攻め込むのではないか』という意見も出ているようです」
ベレは思わずため息をついた。
「はぁ……そんなことはしないのに」
ラインも静かに頷く。
「先の大戦の経緯もあり、警戒しているのでしょう。信頼を得るには時間が掛かります」
ベレは苦笑しながら窓の外へ目を向けた。
「仕方ないわね。だからこそ、こちらは誠実に対応し続けるしかないわ」
ふと、ベレは思い出したように尋ねる。
「ヘルムさんから、新しい情報は?」
「まだ詳しい報告は届いておりません」
「ただ……」
ラインは資料をめくる。
「ヘルム大臣は、強行偵察機を飛ばせないかと国防省と協議しているようです」
ベレは少し考え込んだ。
「でも、それは……」
「はい。ポランド政府の許可がなければ、領空侵犯となる可能性があります」
ベレは静かに頷いた。
「焦って国際問題を増やすわけにはいかないわね。まずはポランドからの返答を待ちましょう」
共和国は軍の展開を完了させつつも、一線を越えないよう慎重な姿勢を崩さなかった。
戦場が近づくほど、冷静な判断が求められていた。




