避難民
総統執務室。
朝早くから一本の緊急電話が鳴り響く。
「総統!ポランド国境より報告です!」
ベレはすぐに受話器を取った。
「状況は?」
「避難民が国境へ到着し始めています。女性や子ども、高齢者が中心です。人数は時間とともに増加しております」
ベレは静かに頷いた。
「始まったのね……」
すぐにラインへ視線を向ける。
「各省へ緊急指示を出します。まず、国境検問所の手続きを簡略化してください。避難民の受け入れを最優先に」
「はい!」
「陸軍は国境周辺へ展開。治安維持と誘導を担当。混乱が起きないようにしてください」
「承知しました!」
「それと、輸送機とトラックを手配。高齢者や子どもを優先して後方へ移送します」
ラインは次々と書き留めていく。
ベレは続けた。
「近隣の村や町へ医師と看護師を派遣してください。臨時診療所も設置しましょう。衛生管理にも注意を」
「はい!」
「仮設住宅の建設も始めます。学校や公民館など使える施設は一時避難所として開放。不足分は急いで仮設住宅を建設してください」
「承知しました」
「食料は?」
農務大臣が答える。
「備蓄を放出いたします。炊き出しも準備しております」
「お願いします」
ベレはさらに続ける。
「子どもたちの保護も忘れないで。保護者とはぐれた子どもの確認。身元確認の窓口も設置してください」
厚生大臣も力強く頷いた。
「直ちに対応いたします」
すべての指示が終わると、部屋は静かになった。
ベレは窓の外を見つめ、小さく呟く。
「戦争の被害を受けるのは……」
少し間を置く。
「いつも普通の人たちなのね……」
兵士は国を守るために戦う。
しかし、家を失い、故郷を追われるのは、戦う術を持たない人々だった。
ベレはゆっくりと拳を握る。
「だからこそ、共和国だけでも守れる命は守りたい」
その言葉に、ラインは静かに頷いた。
「はい、総統」
共和国は武器を造る国であると同時に、人を守る国でもあろうとしていた。
その日の午後。
国防省と外務省から、新たな報告が届いた。
ラインが資料を手に口を開く。
「総統。ポランド戦線の状況です」
ベレは書類を受け取る。
「どうなっているの?」
「不意を突かれたこともあり、ポランド軍は予想以上に苦戦しております。各地で防衛線を構築しておりますが、シア軍の進撃を完全には止められていない模様です」
ベレは静かに地図へ目を落とした。
「やっぱり……最初の一撃が大きかったのね」
ラインは続ける。
「ポランド政府より、共和国へ正式な支援要請が届いております」
「内容は?」
「弾薬の供給。燃料の提供。医薬品および医療資材の支援。以上が主な要請です」
ベレは腕を組み、しばらく考え込んだ。
「物資を送ること自体は問題ないわ。でも、安全に届けられなければ意味がないもの」
ヘルムも頷く。
「現在の戦況では、陸路による輸送は危険です。空輸が最も早いでしょう」
ベレはすぐに判断を下した。
「外務省を通じて、ポランド政府へ伝えてください。共和国は支援を行う用意があります」
「ただし、ポランド国内の飛行場を使用する許可をいただきたいと飛行場の安全が確保され次第、輸送機による物資輸送を開始します」
ラインが書き留める。
「承知しました。直ちに回答を求めます」
ベレは静かに付け加えた。
「共和国は参戦しません。ですが、人道支援と物資支援は惜しみません。苦しんでいる人たちを見捨てるつもりはないわ」
ヘルムも頷く。
「その方針なら、国際社会にも説明がつきます」
数時間後。
外務省はポランド政府へ正式な回答を送った。
『共和国は支援物資の提供を行う用意がある。輸送機による空輸を希望するため、使用可能な飛行場の指定と使用許可を願いたい。』
あとは、ポランド政府からの返答を待つだけだった。
共和国は軍事介入を避けながらも、支援を通じて隣国を支えるという立場を貫こうとしていた。




