共同戦線の誘い
シア国 首脳部会議。
重苦しい空気が会議室を包んでいた。
シフ・タリンは机を叩き、怒声を上げる。
「たかがフィンなどという小国相手に、何故勝てん!」
将軍たちは誰も顔を上げられない。
一人の参謀が恐る恐る口を開く。
「その……想定を超える極寒と、共和国から供与された兵器の影響もありまして……」
「そんな言い訳はどうでもいい!」
シフ・タリンの怒鳴り声が会議室に響く。
「国民が見ている!さっさと結果を出せ!」
会議室は静まり返った。
やがて外務大臣がゆっくりと立ち上がる。
「それでしたら、一つ案がございます」
「申せ」
外務大臣は地図を広げた。
「ポランド国です。比較的平地が多く、機甲部隊の運用に適しております。さらに石炭、亜鉛、鉛、石油、天然ガス、穀物、岩塩など、豊富な資源を有しております」
シフ・タリンは地図を見つめる。
「ポランドか……先の大戦で我が国の領土を、どさくさに紛れて奪い独立した国だな」
「はい」
「東部には我が国の同胞が多く居住しております。同胞の解放を名目とすれば、大義名分も立ちます」
シフ・タリンは腕を組んだ。
「しかし、西部は共和国系住民が多いではないか」
「はい」
外務大臣は静かに頷く。
「そこで共和国にも話を持ち掛けます。共和国も先の大戦で領土を失っております。西部の返還を条件に共同戦線を提案すれば、一つの選択肢として検討する可能性はあります」
その時、一人の将軍が口を開いた。
「しかし、共和国が応じる保証はありません。むしろ断られる可能性の方が高いかと……」
会議室が静まり返る。
シフ・タリンはしばらく考えた後、小さく笑った。
「構わん!断られれば、それまでだ。だが、提案するだけの価値はある」
そして、ゆっくりと立ち上がる。
「共和国が応じれば、我が国は東部。共和国は西部。互いに失った領土を取り戻すことになる。応じなければ、別の手を考えるだけだ」
外務大臣は深く一礼した。
「では、外交ルートを通じ、極秘裏に打診いたします」
「急げ」
「はっ!」
こうしてシア政府は、フィン戦線の膠着を打開する新たな一手として、共和国への極秘外交を開始するのだった。
一人の将軍が、おそるおそるシフ・タリンへ口を開いた。
「書記長閣下。しかし、それでは二方向作戦になってしまいます」
シフ・タリンは鼻で笑う。
「だから何だ?」
会議室が静まり返る。
シフ・タリンは地図の共和国を指差した。
「それと軍には、ポランド侵攻と並行して共和国への侵攻作戦も立案させろ」
「……は?」
将軍たちは思わず顔を見合わせた。
シフ・タリンは構わず続ける。
「共和国など、若い小娘が総統を務める国だ。我が軍の大軍を目の前にすれば、恐れをなして直ちに降伏するだろう。作戦計画を立てろ」
一人の将軍が慌てて進言する。
「しかし、共和国とは現在、外務省を通じて共同戦線の打診を行う予定です。そのような状況で侵攻計画まで立てるのは……」
「馬鹿者!」
シフ・タリンの怒声が会議室に響いた。
「だからこそだ!共同戦線の話を持ち掛ければ、共和国も油断する。その隙を突けばよい」
将軍の表情が凍りつく。
「ま、まさか……外務省の交渉そのものを陽動に使うおつもりで……?」
シフ・タリンは不敵な笑みを浮かべた。
「戦とは、敵を欺いてこそ勝つものだ。外交も、そのための手段に過ぎん。早く作戦計画を立てよ」
将軍たちは苦い表情で顔を見合わせた。
誰も賛成はできなかった。
しかし、この場で逆らえる者もいない。
「……はっ」
重苦しい返答だけが、静まり返った会議室に響いた。




