眠る倉庫
帰還兵の雇用が決まると、私は次の問題を考え始めた。
仕事は作れる。
だが仕事をするにも道具が必要だ。
橋を直すにも。道路を補修するにも。
倉庫を建てるにも。木材や工具がいる。
「全部買うしかないのかしら……」
私は一人、書庫で資料を眺めていた。
その時だった。
ふと、一つの疑問が浮かぶ。
「本当にないの?」
私は顔を上げる。
「ないのではなく、使っていないだけじゃない?」
翌日。
私は執事へ頼み込んだ。
「領館の倉庫を見せてください」
「倉庫でございますか?」
「ええ」
執事は少し驚いた顔をしたが、快く案内してくれた。
領館の裏手。大きな木造倉庫が並んでいる。
扉を開けると、埃が舞った。
長い間、使われていなかったのだろう。
「これは……」
私は思わず息を呑んだ。
中には様々な物が積み上げられていた。
壊れた荷車。折れた車輪。古い樽。
使われなくなった農具。錆びた工具。
そして大量の木材。
執事は苦笑した。
「長年、処分できずに残っていた物ばかりです」
私はゆっくり倉庫の中を歩く。
そして一つひとつ確認していく。
前世の癖だった。まず現物を見る。
私は壊れた荷車を指差す。
「これは?」
「車軸が折れております」
私は頷く。
「車輪は?」
「まだ使えます」
「なら直せますね」
執事が目を丸くした。
「確かに……」
次は木材。
曲がった柱。折れた板。湿気を吸った角材。
私は一本ずつ見ていく。
全部が使えない訳ではない。
むしろ、使える物の方が多い。
「この柱は?」
「少し削れば使えます」
「この板は?」
「倉の補修に使えそうです」
私は笑みを浮かべた。
さらに奥へ進む。
今度は完全に腐った木材が積まれている。
私は一本持ち上げる。指で押すと崩れた。
「これは駄目ね」
執事も頷く。
「処分する予定でした」
私は首を振る。
「捨てる必要はありません。薪にしましょう。暖炉にも使えます」
執事が感心したように笑う。
「なるほど」
その後も倉庫を見て回る。
農具。鍬。鋤。鎌。
柄が折れているだけの物が多い。
鉄の部分はまだ十分使える。
「柄だけ作り直せばいいですね。新品を作るよりずっと安く済みます」
私は庭へ出た。
倉庫は一つではなかった。二つ。三つ。
領館だけでもこれだけある。
なら。村にもあるのではないか?
使われていない倉。放置された資材。
忘れられた道具。私は振り返る。
「領地中を調べましょう」
執事が驚く。
「全てですか?」
「はい」
私は頷いた。
「使える物は使います。買うのは、その後です」
数日後。
調査が始まった。報告は予想以上だった。
使われなくなった納屋。古い橋材。
壊れた荷車。積まれた石材。放置された丸太。
どの村にも少しずつ残っていた。
誰も使わないまま、眠るように。
私は報告書を見ながら小さく笑う。
「宝の山じゃない」
新品ではない。
だが今必要なのは贅沢ではない。
使えることだ。
一つ直せば一つ使える。
十個直せば十人が働ける。
私は静かに呟く。
「資源が足りないんじゃない。眠っていただけなのね」
前世でも何度も見てきた。
復興とは、新しい物を作ることだけではない。
今ある物へ、もう一度命を吹き込むことでもある。そして、眠っていた倉庫が目を覚ます時。
領もまた、少しずつ動き始めようとしていた。




