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平和を望んだ少女は、戦争へ進む。 〜敗戦国の再建を目指した少女の誤算〜  作者:


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仕事を作る

領民会議が終わってから、私は一人で書庫にいた。机の上には紙が何枚も並んでいる。


帰還兵、およそ百名。


農具不足。盗難の増加。食料不安。


私は一つずつ書き出していく。

そして最後に、一つの言葉を書いた。


『仕事』


「結局、全部ここへ繋がるのね……」


仕事がない。だから収入がない。

収入がないから盗みが起きる。

生活が苦しくなる。治安も悪くなる。

悪循環だった。


私は椅子にもたれ掛かる。


前世で紛争地域を訪れた時も同じだった。

停戦したからといって、人々の暮らしが戻る訳ではない。

働く場所がなければ、人は生きられない。

援助だけでは長く続かない。

必要なのは、自分で生活できる環境だ。


「なら答えは簡単ね」


私は紙へ新しく書き始める。

仕事がないなら、仕事を作ればいい。


翌日。


私は母の執務室を訪れた。


「お母様、お時間をいただけますか」


「もちろんよ」


私は紙を机へ広げる。


「帰還兵の方々を雇えないでしょうか」


母は少し驚いた顔をした。


「雇う?」


「はい」


私は一つずつ説明する。


「道路の補修、橋の修理、河川の整備、倉庫の建設や修繕、どれも今すぐ必要な仕事です」


リーブは資料へ目を落とす。


「確かに……」


執事も頷いた。


「以前から先送りになっている工事ばかりでございます。予算不足で後回しにしていました」


私は笑みを浮かべる。


「ちょうどいいではありませんか?領地も良くなる。仕事も生まれる」


一石二鳥だった。


執事は少し考え込む。


「ですが、お嬢様。帰還兵の中には武器を持ったまま戻って来られた方もおります」


私は顔を上げた。


「まだ?」


「はい。停戦命令が全ての部隊へ届いた訳ではありません。武装解除そのものを知らない兵もおります」


私は小さく息を吐いた。

やはりか。戦争が終われば、全員が同時に帰ってくる訳ではない。


情報が届かない部隊もある。

混乱は当然起こる。


私は静かに考える。武器を持った失業兵。

これは非常に危険だ。


だが全員が危険人物ではない。

生活のために帰ってきただけの者も多い。


「武器はどうなっていますか?」


執事が答える。


「領館で預かり始めています。皆、素直に渡してくださいます」


私は安心した。


「なら、それでいいですね」


無理に奪えば反発を生む。

事情を説明し、預かる。その方がずっといい。


私はさらに提案する。


「元兵士の中で、真面目な方はいらっしゃいますか?」


「もちろんおります」


執事が頷く。


「なら、その方々で治安隊を作りませんか」


部屋が静まり返る。

私は続ける。


「領民を守るためです。盗難も増えています。巡回をお願いしたいのです」


執事が腕を組む。


「武器はどういたします?」


「伯爵家で貸し出しましょう」


私は答えた。


「個人所有ではなく、勤務中だけ貸与する形です」


母も頷いた。


「それなら管理もしやすいわね」


さらに私は続ける。


「状態の悪い武器は?」


執事が答える。


「かなりあります。錆びた剣、折れた槍、使えない銃も」


私は即座に言う。


「溶かしましょう。農具に、釘に、工具に」


執事が目を丸くする。


「武器を……ですか?」


「ええ」


私は静かに頷いた。


「もう戦争は終わりました。人を傷付ける鉄より、人を生かす鉄へ。」


部屋は静まり返る。

誰も反対しなかった。


話が終わり、私は庭へ出る。

荷馬車には食料が積まれている。


種子もある。農具もある。


そしてこれから帰還兵達が働く場所もできる。


私は空を見上げた。


道路。橋。河川。倉庫。

今は全て、領民が生きるための仕事だ。

だが私は知っている。

前世の知識が静かに囁く。


道路は軍も通る。橋は軍も渡る。

倉庫は軍も使う。


私は首を横に振った。


「今は、それでいい」


平和を守るには、人々が暮らせる国が必要だ。

まずはその第一歩。

仕事を作ることから始めよう。


その決断が、やがて国の未来を大きく変えていくことを、この時の私はまだ知らなかった。

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