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平和を望んだ少女は、戦争へ進む。 〜敗戦国の再建を目指した少女の誤算〜  作者: 稔


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混乱する司令部

北方前線 シア軍司令部。


司令部の天幕では、怒号が飛び交っていた。

司令長官が机を叩く。


「何故突破できん!」


参謀が慌てて報告する。


「弾薬の補給が前線へ届いておりません!補給部隊が遅れております!」


「航空支援は!」


「天候不順のため、本日は出撃できません!」


司令長官はさらに顔をしかめた。


「ならば砲兵を前へ出せ!」


「砲弾も不足しております!」


「何だと……」


次の瞬間、別の伝令が駆け込んでくる。


「報告します!第三師団長が更迭されました!」


司令長官は思わず立ち上がった。


「何故、そのことを司令部が後から聞くことになるんだ!」


参謀は苦々しい表情を浮かべる。


「政治将校が直接、命令を出した模様であります」


「何故、政治将校が作戦に口を出す!」


司令長官は怒りを抑えきれない。


「現場の状況も知らん者が、どうして前線の指揮官を勝手に更迭できる!」


その時だった。

天幕の入口が静かに開く。

黒い制服を着た男が数名の兵士を従えて入ってくる。


「司令長官殿」


司令長官は鋭く睨みつける。


「何だ、貴様は!」


男は一枚の書類を差し出した。


「書記長閣下の命令です。貴方は本日付で解任されました。直ちに司令官職を更迭いたします」


司令長官は目を見開く。


「馬鹿が!今は攻勢の最中だぞ!今、この場で司令官を替える気か!」


男は表情一つ変えない。


「攻勢開始から既に数週間。それにもかかわらず、敵防衛線を突破できておりません。無能な指揮官を排除することは、軍のためでもあります」


司令長官は拳を握り締める。


「突破できない原因は補給だ!弾薬も!燃料も!増援も!まともに届いていない!その補給計画を変更したのは誰だ!」


政治将校は冷たく答える。


「それは政府の判断です。現場には関係ありません」


司令長官は思わず笑ってしまった。


「現場に関係ない、だと……?戦争を机の上だけでやるつもりか」


しかし政治将校は首を振るだけだった。


「命令は絶対です。お連れします」


武装した兵士たちが司令長官を取り囲む。

周囲の参謀たちは誰一人、動くことができなかった。

その様子を見つめながら、一人の若い参謀が小さく呟く。


「敵に負ける前に……自分たちで、自分たちの軍を壊している……」


誰も、その言葉を否定できなかった。


北方戦線では、フィン軍だけでなく、シア軍自身の混乱もまた、戦線を押しとどめる大きな要因となり始めていた。


――その頃。フィン軍司令部。


作戦室では北方一帯の地図が広げられ、多くの将校たちが集まっていた。

司令官が共和国から派遣された武官へ視線を向ける。


「シア軍の動きはどうだ?」


武官は静かに答えた。


「前線では依然として指揮系統の混乱が続いております。部隊間の連携も乱れ、補給の遅れも改善されておりません」


司令官はゆっくりと頷いた。


「ならば好機だ。局地的反撃を開始する」


参謀が地図へ赤鉛筆で矢印を書き込む。


「目標は敵前線を押し戻すこと。深追いはしないこと。補給線を伸ばすような作戦は避ける。防衛線をより有利な位置へ戻すことを最優先とする」


「了解!」


命令は各部隊へ伝達された。


やがて前線。

共和国製一号戦車がゆっくりと前進を始める。

その後方には、共和国より購入した38t戦車が続いた。


「全車前進!歩兵を援護する!」


37ミリ砲が火を吹き、シア軍の機関銃陣地を次々と制圧していく。


上空では109戦闘機が編隊を組み、シア軍機を迎撃していた。


「敵機確認!」


「迎撃開始!」


激しい空中戦の末、一時的ではあるが制空権を確保する。

その直後、87急降下爆撃機が急降下を開始した。


「目標、敵補給橋!」


「投下!」


爆弾が橋へ命中する。


轟音とともに橋は崩れ落ち、補給車列が立ち往生した。

続いて弾薬集積所にも爆撃が加えられる。

前線ではフィン軍歩兵が一斉に突撃した。


「前進!敵陣を奪還する!」


シア軍は混乱し、各所で後退を始める。

しかし司令官はすぐに命令を下した。


「追撃はするな!予定地点まで押し戻したら、防衛線を再構築する!」


「補給を優先!無理な進撃は禁止だ!」


フィン軍は命令どおり深追いせず、奪還した陣地で防御態勢へ移った。


共和国の派遣武官は、その様子を静かに見つめながら手帳を開く。


『共和国製一号戦車。歩兵支援車両として良好』


『38t戦車。火力、装甲とも高評価。ただし無線機の搭載が望ましい』


『109戦闘機。制空権確保に大きく貢献』


『87急降下爆撃機。橋梁、補給拠点攻撃に極めて有効』


最後に武官は一文を書き加えた。


『共和国製兵器は、フィン軍の反撃成功に大きく寄与した』


報告書は直ちに共和国本国へ送られる。


実戦で積み重ねられた評価は、共和国の兵器開発をさらに一歩前へ進めようとしていた。

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