首都への進撃
ペイン国 南方戦線。
乾いた大地を、一号戦車の履帯が力強く踏みしめていく。
戦車内では無線機から慌ただしく声が響いた。
「こちら戦車小隊!首都まであと数十キロ地点に到着!敵は敗走しております!敵軍の士気は著しく低下しているものと思われます!」
しばらくして司令部から返信が入る。
『本部より了解した』
『補給隊が向かっている』
『一時停止し、武器弾薬、燃料を補給せよ』
「了解した!」
戦車はゆっくりと停止した。
その直後、別の無線が入る。
「二号車より指揮車へ!味方歩兵が遅れ気味です!」
隊長は地図を確認しながら答えた。
「こちら指揮車!こっちも一時停止だ歩兵を待ち、補給も終わらせておこう」
「了解しました!」
一号戦車のエンジン音だけが静かに響く。
砲手が笑いながら隊長へ話しかけた。
「隊長。この一号戦車、中々ですな」
隊長も笑みを浮かべる。
「そうだな。まだまだ『ここをもう少し』って思う所もある。だが、馬に乗って動き回っていた頃を思えば、大分いい」
砲手も大きく頷いた。
「確かに!敵の銃弾を気にせず前へ出られるだけでも全然違います」
装填手も会話へ加わる。
「もう少し威力のある機関銃が付いていれば、歩兵支援も楽になるんですがね」
「そうだな」
隊長は笑いながら答えた。
「どうやら本国じゃ、新型戦車も開発中らしいぞ」
乗員たちの表情が明るくなる。
「そりゃあ早く見てみたいですな!」
「今度はもっと大きな砲も積んでるかもしれませんぜ」
「ははっ!その頃には、俺たちは教官役になってるかもしれん」
戦車兵たちが笑い合う中、遠くから砂煙が上がった。
補給トラックの車列。
そして、その後方には共和国義勇軍の歩兵部隊が続いている。
「ようやく追いついたか」
歩兵中隊長が敬礼する。
「お待たせしました!」
隊長は敬礼を返した。
「ちょうどいい。補給も終わる。ここから先は、君たちにも本格的に戦ってもらうことになる」
歩兵たちの表情が引き締まる。
これまでは占領地の警備や補給路の確保が主任務だった。
しかし首都が目前となった今、共和国義勇軍も初めて本格的な戦闘へ参加する。
誰もが武器を握る手に力を込めた。
首都まで、あとわずか。
共和国義勇軍にとって、本当の戦いが始まろうとしていた。
――その頃。北方の国、スーデン国。
首都の政府庁舎。
重苦しい空気の中、閣僚たちが円卓を囲んでいた。
外務大臣が静かに口を開く。
「共和国の輸送は止めるべきでしょうか……」
しばらく沈黙が流れる。
やがて首相がゆっくりと首を横に振った。
「いや……フィンが負ければ、次は我々だ」
その一言で会議室は静まり返る。
軍務大臣が地図を見ながら説明する。
「フィン軍は、思った以上に健闘しております。外務省経由の情報では、強固な防衛線を築き、シア軍の攻撃を何度も跳ね返しているそうです。共和国からの兵器や弾薬の支援も、大きく影響しているとのことです」
首相は腕を組んだ。
「つまり、共和国の補給が続く限り、フィンも持ちこたえられる可能性があるわけだな」
「はい」
外務大臣が頷く。
「それならば……輸送品に関しては、このまま『知らぬ、存ぜぬ』で通すのが宜しいかと」
「あくまで我が国は見ていない。知っていても確認していない。そういう立場だ」
閣僚たちは静かに頷いた。
中立を守る以上、公に共和国へ協力することはできない。
しかし、輸送を止めればフィンは苦境に立たされる。
その狭間での苦渋の判断だった。
首相は深く息を吐く。
「そうだな……我々から積極的に手を差し伸べることはできん。だが、邪魔をする必要もない」
その時、国防大臣がおそるおそる口を開いた。
「せめて義勇兵の派遣だけでも……」
首相は周囲を見回し、声を落とした。
「……密かに集めよ。決して政府が関与していると悟られるな。志願した者が、自らの意思で国境を越えた。その形を崩すな」
国防大臣は力強く頷いた。
「はい」
会議は静かに終わる。
誰もが理解していた。
中立とは、何もしないことではない。
時には見ないふりをすることも、国家を守るための外交なのであった。




