兵器改良会議
共和国総統府 大会議室。
会議室には国防省、兵器開発局、陸軍工廠、航空工廠、車両工廠、兵站総監部の幹部たちが集まっていた。
机の上にはフィン国とペイン国から届いた、分厚い報告書が積み上げられている。
ベレは席を立ち、出席者を見渡した。
「今日は前線から届いた実戦報告について話し合いたいと思うわ。戦場で得られた経験は、何よりも貴重な資料よ。次の兵器開発へ活かしていきましょう」
幹部たちは一斉に頷いた。
兵器開発局長が最初の資料を広げる。
「まずはフィン戦線です。極寒環境により、潤滑油の硬化、機関銃の作動不良、車両始動の困難、防寒装備の不足などが報告されています」
ベレは資料を見ながら頷く。
「耐寒潤滑油は開発できそう?」
「はい」
「配合を変更すれば対応可能かと思われます」
「お願い。それと防寒服も見直しましょう。今の装備では寒さに耐え切れていないみたい」
「承知しました」
続いて車両工廠長が立ち上がる。
「もう一点ございます。雪や泥濘地では履帯が細く、車体が沈み込みやすいことも判明しました」
ベレは興味深そうに資料を見る。
「履帯幅を広げれば改善できそう?」
「はい」
「接地圧が下がりますので、走破性は大きく向上します」
「そう。なら五号戦車では、その方向で設計を進めてみて。寒冷地や泥濘地でも動ける車両にしましょう」
「了解しました」
兵器開発局長は次の資料へ移る。
「続いてペイン戦線です。こちらでは高温によるエンジンの過熱、防塵不足、吸気系統の不具合が確認されました」
ベレは静かに頷いた。
「北とは正反対ね。冷却性能と防塵対策は、三号戦車以降へ反映できそう?」
「可能です。エアクリーナーの改良も併せて行います」
「じゃあ、その内容も設計へ組み込みましょう。現在開発中の車両や製造中も、間に合うなら反映して」
「承知しました」
兵站総監部の幹部が資料を開く。
「補給面でも改善要望がございます。糧食は栄養価や保存性、携行性の向上。補給トラックは悪路での耐久性不足が報告されています」
ベレは頷いた。
「補給も前線を支える大事な戦力ね。糧食の品質向上も進めましょう。補給トラックも足回りや積載量を見直して、現場が使いやすい車両にしてほしいわ」
「了解しました」
会議室は静まり返る。
ベレはゆっくりと皆を見渡した。
「兵器は工場だけで完成するものじゃないと思うの。実際に使って初めて、良いところも悪いところも分かる」
設計者たちが真剣な表情で耳を傾ける。
「今回の実戦データは共和国にとって、とても大切な財産よ。現場で分かったことは遠慮なく設計へ反映して。もっと使いやすく、もっと壊れにくい兵器を目指しましょう」
全員が立ち上がる。
「はっ!」
北の極寒。
南の酷暑。
二つの戦場から届いた教訓は、新たな共和国兵器を生み出す礎となろうとしていた。
――その日の午後。
執務室の扉が勢いよく開いた。
「おーい!ちゃんと総統やってるか?」
聞き慣れた声に、ベレは顔を上げる。
「おひさー! ヘルムさん!」
「たまには顔を出さねーとな」
ヘルムは笑いながら、分厚い資料を机へ置いた。
「ほれ、土産だ」
「資料?」
「それと新聞もだ」
ベレは首を傾げる。
「新聞も?」
「ああ」
「シアの新聞だ。日にちはかなり経っちまってるが、情報省で翻訳した」
ベレは興味深そうに紙面をめくる。
「何々……『我がシア軍は勇敢にフィン軍を追い詰めつつあり!』『苦戦するフィン軍!』『勇猛果敢なる我が軍は勝利へ進撃中!』」
ベレは新聞を閉じ、小さく笑う。
「ずいぶん景気がいい記事ね」
ヘルムも肩をすくめた。
「まあ、国内向けの記事なんてそんなもんだ。で、本題だ」
ヘルムは表情を引き締め、一枚の報告書を差し出す。
「情報省で集めた情報をまとめた。共和国は武官を派遣してるし、現地からの報告もあるから、精度は高い」
ベレは頷く。
「聞かせて」
ヘルムは資料を開いた。
「シア軍は予想以上に苦戦している。原因は三つ」
指を一本立てる。
「一つ。兵士の練度不足」
二本目を立てる。
「二つ。指揮官不足」
そして三本目。
「三つ。開戦準備不足だ」
ベレは静かに資料へ目を落とした。
ヘルムは続ける。
「以前報告した将官の粛清。あれは、どうやら事実だった。その影響で指揮系統が混乱してる。命令が前線まで届かない。補給計画も機能していない。結果として部隊ごとの連携が取れず、各個撃破されているらしい」
ベレは小さく息を吐く。
「なるほど……」
ヘルムは地図を広げた。
「その間にフィン軍は地形を利用して持ちこたえている。航空隊も補給線を叩いてる。だからシア軍は思うように前へ進めない」
執務室は静まり返った。
しばらくして、ベレが口を開く。
「情報省としては?」
ヘルムは即答した。
「共和国は今まで通りでいい。引き続き武器、弾薬、補給物資を送り続けることを支持する。フィン軍が踏ん張る時間が長いほど、共和国にとっても有利になる」
ベレはゆっくりと頷いた。
「なるほどね……派手に動く必要はない。でも、支援の手は緩めない」
ヘルムはニヤリと笑った。
「そういうことだ。戦場で戦ってるのはフィン軍だ。俺たちは、その背中を支え続けりゃいい」
ベレは地図へ視線を移した。
北方戦線は、まだ始まったばかりだった。




