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平和を望んだ少女は、戦争へ進む。 〜敗戦国の再建を目指した少女の誤算〜  作者: 稔


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実戦の教訓

ペイン国 共和国派遣軍司令部。


司令部の天幕では、大きな地図を囲んで参謀たちが報告をまとめていた。


一人の参謀が敬礼する。


「司令」


「アーフリカからの兵員空輸は順調に進んでおります」


司令官は地図から目を離さず頷いた。


「問題ないな」


「はい」


「この一帯の制空権は既に確保しております」


共和国航空隊の戦闘機が上空を押さえているため、輸送機はほぼ妨害を受けずに飛行できていた。


司令官は赤鉛筆で前線をなぞる。


「となると……後は前線か」


参謀も頷く。


「ですな。敵の抵抗は徐々に弱まっておりますが、問題も見えてきました」


司令官は視線を向けた。


「一号戦車です。やはり非力すぎますな」


歩兵支援には十分な性能を発揮している。

しかし、敵陣地への突破力は不足していた。

砲も装甲も、もう一歩欲しい。


司令官は腕を組む。


「だな。それだけじゃない。暑さでエンジンもオーバーヒート気味だ」


冷却水の温度はすぐに上昇し、長時間の行軍では頻繁な休止を余儀なくされる。


参謀は手帳を開いた。


「全車両の故障状況は記録しております。冷却系統、履帯、変速機、燃料消費まで細かくまとめています」


司令官は満足そうに頷いた。


「その調子だ。問題点が出れば、次の開発に役に立つ」


戦場は兵器を試す最高の実験場でもある。


設計室では分からない欠点が、実戦では次々と姿を現す。


参謀は静かに笑う。


「その辺は抜かりありません。現場の整備兵や戦車兵からも意見を集めております」


「『整備しやすくしてほしい』」


「『冷却性能をもっと上げてほしい』」


「『もう少し火力が欲しい』など、様々です」


司令官は報告書を閉じた。


「いい傾向だ。兵器は机の上で完成するものじゃない。実戦で育つ」


その言葉に参謀たちも大きく頷く。

共和国軍は勝利を目指すだけではない。


戦場で得た一つ一つの教訓を持ち帰り、次の兵器開発へ生かそうとしていた。


それこそが、共和国が他国より速い速度で成長を続ける理由だった。


――共和国総統執務室。


ラインは新たな報告書の束を机へ置いた。


私はフィン国とペイン国から届いた報告書を見比べる。


「北と南……」


思わず小さく呟いた。


「同じ兵器なのに、別々の不具合報告が来ている」


フィン国では極寒。機関銃の作動不良。

潤滑油の硬化。始動しない車両。


一方、ペイン国では酷暑。


戦車のエンジンは熱を持ち、冷却性能の不足が問題になっている。


私は椅子にもたれ、腕を組んだ。


「これは……問題ね」


兵器そのものの性能は悪くない。

しかし、使用環境によって想定外の欠点が現れていた。


ラインが口を開く。


「兵器開発局にも、既に両戦線の報告は送付しております」


「そう」


私は頷いた。


「最前線からの指摘ほど貴重な資料はないわ」


一枚の書類を手に取る。


「念のため、この改善指示の書類を各省へ回して。国防省。兵器開発局。陸軍工廠。航空工廠。車両工廠。全部でいいわ」


ラインはすぐに返事をした。


「既に共有は始まっておりますが、改めて通達いたします」


「お願い」


共和国はまだ発展途上の国だ。

だからこそ、失敗を隠さない。

戦場で見つかった欠点は、次の兵器では必ず改善する。


私は二つの報告書を閉じ、小さく笑った。


「北は寒さ、南は暑さ。どちらも共和国にはない環境ね」


だからこそ価値がある。

実戦で得た経験は、何よりも優秀な教科書なのだから。

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