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平和を望んだ少女は、戦争へ進む。 〜敗戦国の再建を目指した少女の誤算〜  作者: 稔


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最大の敵

フィン国共和国軍事顧問団駐屯地。


共和国から派遣された武官は、肩を震わせながら空を見上げていた。


「うぅ……まさか、こんなに冷えるとは……」


吐く息は一瞬で白く凍りつく。


共和国から持参した防寒外套を着込んでいるにもかかわらず、寒さが体の芯まで染み込んでくる。


「国から持って来た防寒具が、全く意味をなさない……」


隣にいたフィン軍の将校が豪快に笑った。


「はっはっは!今日はまだマイナス十九度ですから、暖かい方ですよ」


共和国の武官は思わず目を丸くする。


「何と……これで暖かい方なのですか」


「ええ。冬の嵐なら、もっと下がります」


言葉を失う共和国の武官へ、フィン軍将校は優しく微笑んだ。


「後ほど人数分、防寒具をお渡しします」


「……お願いします」


素直に頭を下げた。

共和国では経験したことのない寒さだった。


フィン軍将校は共和国製の機関銃へ目を向ける。


「御国の兵器は素晴らしい。ですが、この極寒では厳しい物もありますな」


共和国の武官も苦笑した。


「ですな。まさか寒さがここまで影響するとは……」


報告書へ目を落とす。


「自信があった機関銃も、連射すると作動不良を起こし、単発のようになってしまいます」


油が固まり。部品の動きも鈍くなる。

共和国では考えもしなかった現象だった。

フィン軍将校は静かに頷く。


「これが寒さです。車両も不凍液を使わなければなりません。さもないと冷却水が凍り、エンジンを壊します」


共和国の武官は驚きを隠せない。


「確かに……まさかエンジンの下で薪を燃やし、温めてから始動することになるとは思いませんでした」


「こちらでは普通ですよ」


フィン軍将校は笑いながら答えた。


「一晩置けば、何もしなければエンジンは目を覚ましません」


武官は苦笑するしかなかった。

さらにフィン軍将校は足元を指差した。


「それと軍靴です。二回りほど大きい物を履き、中へ藁を詰めます」


共和国の武官は、自分の軍靴を見下ろした。

確かに足先の感覚が薄れている。


「そうだな……足から冷えてくる。これは堪える」


歩くだけでも体力を奪われる。

敵と戦う前に、寒さとの戦いが始まっていた。

共和国の武官は手帳を取り出し、万年筆を走らせる。


『本国へ意見具申』


『共和国軍装備は、この地の気候に適合せず』


『防寒服の改良』


『大型軍靴の採用』


『防寒手袋』


『耐寒潤滑油』


『不凍液の標準装備』


『寒冷地仕様車両の研究』


書き終えると、小さく息を吐いた。


「我々は兵器ばかり見ていた。だが、この土地では違う」


窓の外では、白い雪が静かに降り続いている。


共和国の武官はその景色を見つめながら、静かに呟いた。


「この戦場で最大の敵は……シア軍ではない。寒さだ」


総統執務室。


ラインが新たな報告書を手に入室した。


「総統。ペイン国へ派遣している部隊から報告が入りました」


私は顔を上げる。


「どう?」


ラインは報告書へ目を落とした。


「航空隊は制空権を確保。現在、反政府軍と共に首都へ向けて進撃中とのことです」


私は静かに頷く。


「順調そうね」


「はい。敵航空戦力は大きく後退し、航空支援も円滑に行われているとの報告です」


「地上部隊は?」


「共和国義勇軍地上隊は、まだ本格的な戦闘には参加していないようであります。後方警備、補給路の確保、占領地域の治安維持が主任務とのことです」


私は椅子にもたれながら腕を組んだ。


「なるほど。無理に前へ出さず、現地軍を主体に進めているのね」


それなら共和国軍の損害も最小限で済む。

実戦経験を積ませながら、戦力を温存できる。


「悪くないわ」


ラインも頷く。


「航空優勢を確保したことで、敵の補給や移動も大きく制限されているそうです」


私は世界地図へ視線を向けた。


南ではペイン国。

北ではフィン国。


同じ共和国軍でも、戦場の様相は全く異なる。


「片方は航空優勢を活かした進撃。もう片方は、極寒の中での持久戦……」


私は小さく息を吐いた。


「戦争って、本当に同じものは一つとしてないわね」


共和国は二つの戦場から、多くの経験を得ようとしていた。

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