二つの補給路
執務室。
ラインが一通の電報を手に入室した。
「総統。スーデン国より回答が届きました」
私は顔を上げる。
「何だって?」
ラインは電報を読み上げた。
「共和国の公式見解は、貴国の物資輸送に関しては感知せず。以上です」
私は数秒、黙って考え込む。
「……なるほど」
小さく笑みを浮かべた。
「つまり……知らぬから、勝手にしろってことね」
ラインも静かに頷く。
「恐らくそのような意図かと。仮に問題が起きたとしても、『我が国は把握していなかった』という立場を取るつもりでしょう」
「その様ね」
スーデン国も難しい立場にある。
フィン国を見捨てたくはない。
しかし、シア国を必要以上に刺激するつもりもない。
だからこその、この曖昧な返答。
「外交らしい回答だわ」
私は苦笑した。
それでも共和国にとっては十分だった。
通過を明確に拒否していない。
つまり実質的には容認しているのと同じだ。
私は地図を机へ広げる。
「ならいいか」
赤鉛筆で二本の線を引いた。
一本は共和国から直接フィン国へ向かう海路。
もう一本はスーデン国を経由する鉄道路線。
「直接向かう船便とスーデン経由の鉄道でも物資を送って」
ラインはすぐに敬礼する。
「はっ!海軍、鉄道局、外務省へも同時に伝達いたします」
「お願い」
ラインが退室すると、私は地図を見つめ続けた。
「これで補給は二ルート」
海上輸送。そして鉄道輸送。
「どちらか一方が潰れても、もう片方で支えられる」
兵站は戦場の生命線。
前線でどれだけ勇敢に戦っても、弾薬も燃料も届かなければ勝てない。
だからこそ、共和国は最初から一つの輸送路に頼るつもりはなかった。
私は窓の外へ目を向ける。
「戦争は前線だけで決まるものじゃない。その後ろにある補給網こそが、勝敗を左右する」
静かな口調だったが、その言葉には確信があった。
その兵站は、すでに北方戦線を支えるために動き始めていた。




