動き出した計画
執務室。
私は淹れたてのコーヒーを一口飲み、小さく息をついた。
「ふぅ……」
「ここ最近は、朝から報告を聞くのが日課になったわね」
苦笑しながらカップを見つめる。
「でも、コーヒーは美味しいわ!」
そのタイミングでラインが入室した。
「総統、本日の報告です」
「お願い」
ラインは手帳を開き、一つずつ読み上げる。
「まず、フィン国ですが、各車両及び武器弾薬は無事到着しております。それと、国防省より派遣した武官並びに技術将校も現地へ到着いたしました」
私は頷く。
「順調そうね」
「はい」
「現在、各兵器の運用試験及び教育訓練を開始しております」
「そう」
「しっかり運用方法まで覚えてもらわないとね」
ラインは次の報告へ移る。
「続いてルマニア国です。個人装備を中心とした兵器類の輸送を開始しております。また、石油による支払い第一陣が共和国へ向けて鉄道で、出たとの連絡が入っております」
私は思わず笑みを浮かべた。
「石油が来るのね」
共和国にとって何より嬉しい知らせだった。
「さらに、技術援助の申し出につきましても正式な要請がありました。現在、共和国の企業数社が現地視察のためルマニア国へ入国しております。現地では特別待遇を受けているとのことです」
「思ったより話が早いわね」
互いの利害が一致しているからこそ、交渉も順調に進んでいるのだろう。
ラインは最後の報告書を開いた。
「最後にペイン国です」
私は姿勢を正す。
「各省による検討の結果、義勇軍という形であれば法的な問題はないとの結論になりました。国防省では、総勢一万人を上限として部隊をローテーションしながら派遣する計画です」
私は静かに耳を傾ける。
「現地では各種兵器の実戦運用及び戦術の検証も実施する予定とのことです」
共和国軍にとっても貴重な経験になる。
実戦から得られる教訓は、演習では決して得られない。
ラインは報告書を閉じた。
「以上となります」
私は満足そうに頷く。
「分かったわ」
「ありがとう」
「はい」
ラインは一礼して執務室を後にした。
私は残ったコーヒーをゆっくり飲み干す。
少し前までは、国内のことで手一杯だった共和国。
しかし今では、フィン国、ルマニア国、そしてペイン国へと、その影響力を広げ始めている。
「忙しくなるわね……」
そう呟きながらも、不思議と嫌な気はしなかった。共和国は今、新たな時代への一歩を踏み出そうとしていた。
私は情報省から届いた各国の資料を机いっぱいに広げた。
「やっと……各国の情報が大体揃ったかな」
まず目を通したのは、シア国。
「人口は共和国の約二・五倍……」
思った以上に大国だ。
「重工業は、まだまだね」
工業力では共和国が一歩先を行っている。
私は腕を組む。
「でも、前世の記憶だと資源が豊富だったはず……」
石油。鉄鉱石。石炭。
様々な資源を持っていた記憶がある。
「でも今はどうなのかしら」
資料を何度か読み返す。
「その辺りは、まだ詳しく書かれていないか」
情報不足。今後の調査課題だ。
私は次の資料を手に取った。
「ランス国っと」
人口は共和国より多い。
そして――
「重工業はかなり発達しているわね」
私は小さく笑う。
「流石は大国だわ」
工場。製鉄。工作機械。
どれも共和国と肩を並べるか、それ以上だった。
次はギリス国。
「工業力は共和国と同等……いや、それ以上ね」
さらに読み進める。
「世界各地に植民地を持ち、資源調達能力も極めて高い」
私は海図へ目を向けた。
「それを支えているのが海軍力か……」
世界中の海を押さえる海軍。
だからこそ植民地も維持できる。
私は苦笑する。
「こりゃ~、陸軍国家のうちじゃ海軍では歯が立たないわね」
今すぐ追いつける相手ではない。
そして本国。
私は少しだけ懐かしい気持ちになる。
「ギリスと並ぶ造船能力。まあ、島国だからそうなるわよね」
優秀な造船技術。優秀な海軍。
その一方で――
「資源は、やっぱり輸入頼みか」
そこは前世とよく似ていた。
私は資料を閉じ、静かに呟く。
「うーむ……全く同じ世界ではない」
歴史も違う。国境も違う。
それでも、大まかな国力や特徴はどこか似ている。
私は窓の外を眺めた。
「でも……ちょび髭さんも居ない」
あの男がいない。
だから、前世のような世界大戦は起こらない。
少なくとも私はそう信じている。
「あの流れは……私が抑えたはずだから」
共和国は戦争ではなく、外交と貿易を選んだ。
このまま進めば、大戦は避けられる。
最後の資料を手に取る。
「メリカ国は……」
ページを開いた瞬間、小さく笑ってしまう。
「こりゃ~世界最大の生産力」
工業力。農業。資源。金融。
どれを取っても群を抜いている。
「資源も豊か。お金持ち」
私は肩をすくめた。
「この世界でも、世界最強ね」
資料を閉じる。
世界には強国がいくつもある。
共和国はまだ、その中へようやく足を踏み入れたばかりだ。
「焦る必要はないわ。一歩ずつ、共和国を強くしていきましょう」
そう呟くベレの表情には、世界を見据える指導者としての落ち着きが宿り始めていた。




